「ねえ、ヒデ君。今日もサッカーするよ。この前ちゃんとボールをキックできたから、今日もできるよね。やってみようね。」
 
スミレ先生が誘いに来てくれた。
みんなはもう、自分のボールを持って行って練習の準備をしている。
ぼくは校庭のすみっこでしゃがみこんでいた。
 
この前、こうやって座っていたら、スミレ先生が後ろから抱っこしてくれた。
グイグイ引っ張られたり押されたりしてちょっと痛かったけど、
最後は後ろから抱っこしてくれて、一緒にボールを蹴ろうって言ってくれた。
 
スミレ先生、とってもいい香りがした。
ふんわり柔らかくて、温かかった。
 
ママはもうボクを抱っこしてくれたりしない。
もう大きいから、抱っこしちゃいけないって、偉いお医者さんの本に書いてあったんだって。
ジリツシンヲヤシナウって何?
 
スミレ先生はもう引っ張ったりしないって言ってたけど、こうやって座っていたら、きっとまたボクのことを呼びに来てくれる。それで、サッカーしようって、抱っこしてくれるに決まっている。
だから、ボクは絶対に動かない。
 
スミレ先生は悲しそうな困ったような顔をして、みんなのほうへ行ってしまった。
ボクを置いていかないで!
ボクは待っている。
 
でも、スミレ先生は来てくれない。
大きな声で泣いてやる!
それでも、スミレ先生は来てくれない。
どうして?
 
そうだ。サッカーのせいだ。
ボクがサッカーができないから、スミレ先生はボクのことが嫌いになっちゃったんだ。
だって、むこうでシュートの練習をしているみんなとは、あんなに楽しそうにしている。
 
そうか。スミレ先生もママと同じなんだ。
サッカーができる子が好きなんだ。
 
ボクは、誰からも、好きになって、もらえない。






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