出先でひらめいた誕生日プレゼントの「ミュシャ展前売りチケット2枚」は、その日のうちに買ってしまうことにした。後回しにするといろいろ差し障りが出て諦めたくなるのが私の性格だ。

前売りチケットは、展覧会が開催される六本木の森美術館のほか、コンビニでも買えるらしい。六本木まで行くのは面倒だから、ここはひとつ、手近なところでと思う。

しかし、これはプレゼントだ。ローソンチケットの発券機から出てきた、印字だけのチケットではありがた味に欠けるではないか。ステキさも損なわれる。それに、お出かけ後のチケットの半券を手帳に貼って記念にするのは私の大事な習慣だ。(大して見直すわけでもないが…。)是非、ミュシャの絵がついたチケットがほしい。

例によって、yahooオークションを調べてみると、ちゃんと絵がついたチケットがあるようだ。これだこれだ。

六本木に出向くことなく、絵つきのチケットを手に入れるには…。
ない知恵を絞って考えた。ポスターを改めて見直すと、意外なことにJRみどりの窓口、と書いてある。

どうしてみどりの窓口で美術展の前売り券が買えるのだろう?
もしかしたら、この絵つきのチケットが何枚かずつあって、それを売ってくれるのかもしれない。ありがたや〜。行くべし、行くべし。

人ごみは苦手だけど、目的があれば頑張れる。私は日曜日の昼下がり、波のように押し寄せる人をかきわけ、みどりの窓口にたどりついた。自動扉の中は長蛇の列だ。

「今日のご用件は…」丁寧に尋ねられたので、用件を告げると、小首を傾げた女性は奥に一度引っ込み、何事か調べてから「お客様。ご要望にお応えできるようですので、こちらにお越しください。」と、他の方とは違う窓口に連れて行かれた。

女性はきっと、チケットの残り枚数を確認したに違いない。さっき、「何人分ですか?」と尋ねられたし。私は自分の思いつきの素晴らしさに、ちょっとした感動すら覚えていた。

窓口では、案内の女性から引き継ぎを受けた男性が手続きを始めた。申込書を書かされ、ずいぶん時間をかけて分厚いファイルを調べている男性を窓口で待った。あのファイルの中には、各種のチケットが入っているのだろうか。それにしても分厚い。

何事かを機械に入力している。会計のためだろう。
「お客様、お待たせしました。チケットのご用意ができました。」

差し出されたチケットを見て、息を飲んだ。
予想していた絵つきのチケットではなく、新幹線のチケットそのままだったからだ。

「あの、あの…」
私としたことが、うまく言葉が出ないほど驚いてしまった。 
「何かお間違いでも!?」
相手も私の動揺を見て焦っている。
「いえ、あの…」
すでに発見手続き完了したチケットを、今更いりませんとは言えないではないか。

「あの、あの…このチケットはこのまま入場するのですか?」
「ああ、お待ちください。。。。いえ、窓口で当日券に交換なさってください。」
「あ、交換!それならいいです。ありがとうございました!」

そうか。絵つきは当日手に入るのか。それならいいでしょうということで、どしゃぶり寸前の心を救われた思いで帰宅した。案内の女性が奥に引っ込んで何事か調べたのも、男性が分厚いマニュアルを必死で読んでいたのも、みどりの窓口で美術展のチケットを買おうとする人など滅多にいないからだったのだと、この時になってようやく理解した。愚かな私。。。


こんな思いつきを長く黙っていられるほど私は大人でもない。いい歳して残念なことだ。

「あのですね、かなり早いですが、誕生日プレゼントを用意しました。」
「へぇ。ありがとう。何ですか?」
「これです。」
「あ!新幹線だ!どこまで行くのかな
「期待を大きく裏切って申し訳ないのですが、よく見てください。」
「え?違うの??どこから見ても…あミュシャ展って書いてある!すごい。今朝話したばかりなのに、こんなのがあったんですか。これ、どこでやるの?六本木ぃ??!」

最後の「六本木ぃ??!」が異様なイントネーションだったので、注意深く見ていると、くまさんは叫んだ。
「無理。六本木怖い。六本木はおしゃれ。何着たらいいかわからない。浮くに決まってる。ムリムリむり無理!!行けないよぉ






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