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そうか、大切なのは結果よりプロセスかもしれないと気付いたあと、最初に納得したのは年賀状の写真を撮りに出かけた時だった。

例年、干支の動物を写真にしたりイラストにしたりして年賀状を作成する。くまさんが凝り性なので、12月になるといい写真を撮れそうな場所まで1日がかりででかける。うさぎ年にはウサギを撮影に伊豆まででかけたが、気に入ったウサギ写真がとうとう撮れなかった。しかたなく、カピバラに手書きの耳をつけた。ドロップイヤーだ。同僚の息子には「これ、カピバラでしょ?そうだよね?」とおもしろがってもらえたが、高校時代の恩師からは「今年は子年ではありません。」という真摯なコメントをいただいた。遊び心が伝わらなかったらしい。無念だ。

昨年の辰年は、撮影しがたいのでイラストにした。苦心して龍珠をサッカーボールにしたのだが、誰からも反応はなかった。おおいにつまらなかった。

今年は巳年だ。ヘビだ。私は嫌いなのだ、足がなくて長いものは!
お笑い芸人がハブだのアナコンダだのをギャーギャーいいながら首に巻かされているところなど見ると、芸人以上に私がギャーギャー言っている。あれはいかん。撮影に行くなど、もってのほかだ。

しかも、親しい友人にはヘビ嫌いが多い。仕事でお客様をご案内中に、わき道から青大将が出てきたのを見て、お客様を放置し、100メートルも逃げた後輩がいる。彼にも年賀状を送る習慣だが、イラストであってもヘビはいやだろうなぁ。後から文句を言われるのも心外だ。

「どうかね、一本うどんに目をつけるというのは。」
くまさんはアイディアマンだ。
「目?」
「こういうクリクリしたやつを2個置くんだよ。縁起の良い白蛇様の完成だ。」
「なるほど〜。そういう目なら百均で黒赤青入りが買えます。大きさも選び放題!」
「じゃ、そういうことで。予約とってください。」
「はいはい、喜んで!」

池波正太郎の『鬼平犯科帳』全24巻は、私の愛読書だ。この話はいずれ書こうと思う。これも、結果よりプロセスの一例だから。

その『鬼平犯科帳』の主人公・長谷川平蔵の部下に、木村忠吾というとぼけた同心が出てくる。彼の好物としてこの「深川名物・一本うどん」が登場する。初めて「一本うどん」を知った時、見たことも聞いたこともなかった私は、ネットでちょっと調べてみた。すると、深川の皆様が、このうどんを町おこしの一環として復活させていることがわかった。

いずれ食してみたいと思ったものの、わざわざうどん1本のために出かけて行く手間、予約が必要という面倒さ、日曜日を外で過ごす疲労感などを思うと、実現する気になれなかった。そのまま数年たった。

今年9月1日から、また鬼平を読み返し始めて、「やっぱり行ってみようかな」と思い、くまさんに話していた。いろいろな一本うどんがある中で、これが一番美味しそうとも決めてみた。でも、その先の、私の腰が重いので、計画は立ち消えていたのだ。

門前仲町の「浅野屋」さんに予約電話を入れた。当日は別のお楽しみもかみ合わせ、車ででかけた。先にお楽しみを済ませ、浅野屋さんを探すと、思いのほか簡単についてしまって、予約時間より2時間も早かった。お店に入ってお願いしてみると、こころよく作ってくださるという。一本うどんを蒸し上げるには時間がかかるとのことだが、つまみをいくつか頼み、おしゃべりしていれば1時間などすぐだ。

出てきた一本うどんに、用意の目をそっと載せる。
撮影許可は先にいただいていた。
胸をドキドキさせながら、写真を撮った。
でも、なんだか焦ってしまって、黒目がずれていることに気付かなかった!

この一本うどんは本当に美味しかった。時間をかけて作る割には800円というから、利益なんか出ないと思われる。うどんを小さくちぎり、ゆず、ごま、青のり、ねぎ、酢味噌、甘口の醤油餡を好みでつけていただく。うどんというよりは餅とか団子とかの食感に近い。これは、本当に美味しい。

他のメニューもいただいてみたかったので、一本うどんは2人で分けた。昼食を食べに出ることは珍しくないが、この日は本当に楽しい食事になった。

その時の写真を、くまさんが年賀状に仕上げてくれた。出し遅れたこともあるが、今年も、こんな不思議なものを何の説明もなく載せたというのに、誰からも一切何も聞かれなかった。いつもなら、あ〜つまらないと嘆くところだ。

でも、今年はまったく気にならない。アイディアを思いつくところから、出かけて行く一歩一歩が、楽しくてしかたなかった。それだけで満足できたからだろうと思う。

プロセスを大切に楽しむと、こういう変化が起きるのかと実感した出来事だった。

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次につづく。







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