どうも、勘助です。
カピバラ食堂に緊迫した空気が流れています。ヒツジもどき…いや、後藤さんが「弓子さん」と姉さんに呼びかけて沈黙してから、すでに5分は経っています。

後藤さんは「お嬢様、大変でございます〜」と駆けこんできて、かあさんとおやじさんに飛びつくようにして言いました。
「朗報でございます!なんと、大奥様の癌が消えてしまったのです。2度検査して、他の病院でも確かめましたが、跡形もないのでございます!」

「まぁ!」かあさんの頬がピンクに染まりました。
「それはそれは。で、お母様は?」
「はい。病院から、もう入院している理由はないと言われ、那須のご別邸に向かわれました。ただ…」
「ただ、どうしたのですか?」
「はい。お気持ちまですっかりお元気になられて、お嬢様とお暮しになろうとユニクロで山ほど購入されたスヌーピー柄のトレーナーなどをお持ちになり、ご自身の手で衣食に苦しんでいる子供たちにお届けになりたいと、アフリカへ行くとおっしゃるのです。私もお供を仰せつかりました。いえ、お供はよいのですが…。弓子さん。」

後藤さんはそれきり何も言いません。弓子さんも黙っています。カピバラ食堂の中には、おやじさんが仕込んでいるトンコツの鍋の音だけが響いています。後藤さんは何を言いあぐねているのか、何度も言おうとしては言葉を飲みこんでいる様子です。でも、とうとう、絞り出すように言いました。

「弓子さん。私と結婚してください。そして、一緒にアフリカへ行きましょう。」

今度は弓子姉さんが絶句しました。
でも、それは短い時間で、満面の笑みをたたえた弓子姉さんは言いました。
「私のお願いを聞いてくださるなら、お受けいたします。」
「なんでしょう、何でもおっしゃってください。」
「あのカピバラ公園牧場で温泉に入るカピバラ親子を見せてください。」

かあさんとおやじさんが顔を見合わせました。カピバラ公園牧場は経営不振で閉園したと報じられたばかりではありませんか。
ぐっと詰まった後藤さんは、こぶしを握り締め、頭を上げると、
「お任せくださいませ。私、これから旦那様にあの公園牧場を買い取ってくださるよう、一生のお願いに参ります。待っていてください!すぐでございますから!!!!」
叫ぶが早いか、店を猛ダッシュで駆けだして行きました。

「え、うそ!待って!待ってください!!後藤さん!後藤さぁん!!!」
後を追いかけて走りだした弓子姉さんのスカートの裾が、羽毛のように踊っています。

かあさんとおやじさんは、もう一度顔を見合わせると、同時に吹き出しました。

「よかったのう、融。」
「はい、はい!」
不慮の事故で亡くなった後も姉のことが心配で、つい壁に描かれたカピバラの絵に宿り、姉をずっと見守っていた融は、男泣きに泣いています。
私の隣の椅子・兼続も、向かいのお美代ももらい泣きしています。
普段から涙もろい机の半兵衛は融以上に号泣しています。
「おい半兵衛、いい加減にしろ。お前の鼻水で、俺までびしょ濡れじゃねえか。」

                                   完








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