あなたが現地に出向くと、私とお父様は後藤の…後藤の亡くなった父親ですが…報告を今や遅しと待ちうけました。依頼者がこんなことを言った、花亜さんがこう答えた、こんなことをしたと、聞いては話し合い、期待に胸ふくらませ、おどおどと心配しあいました。そうして、花亜にはこうして陰で二人見守っていることをけして悟られまいとお約束を繰り返したのです。

だからあなたは、今この時まで、このような裏話があったとは思いもよらずにいたことでしょう。私はこれでお父様と心通わせることができたと思いました。秘密を共有し、同志になれたとも思いました。それまでの、私の数々の非礼、無慈悲も帳消しになったと思ったのです。

しかしそれは、甘い考えでした。私は欲を出しました。お父様ともっと親密になるには、あなたの活躍の場を広げるのがよいと一人合点したのです。それまで、あなたの行き先はいつもお父様と相談してから決めていたのに、この時は独断で、あなたをマスコミに登場させる計画を進めました。きっとお父様も賛成し、後押ししてくださると信じて疑いませんでした。

しかし、結果は違いました。丁度、ご病気も悪化し始めた時でもありました。お父様が選んだのは、私ではなく、花亜さん、あなたでした。あなたを片時も離したくないとお考えになり、あなたを外に出そうとする私をお留めになったのです。

「そうですね、あなたのお考えどおりにしましょう。」と、私が答えていればよいことでした。今ならわかるこの道理が、その時の私には分かりませんでした。恥を忍んで書かなくてはなりません。私はあなたに心底、嫉妬していたのです。私からお父様の信頼を奪ったあなたが、憎くて憎くて、しかたがなかったのです。どうあっても、あなたをお父様から引き離さなくてはいられないほど、狂気していました。

もしも、お父様がご信頼なさったのが、妾でもあったなら、私はああまで狂わなかったでしょう。私であることのプライドを捨てることもなかったと思います。けれども、娘であるあなただったから、愛してやまないあなただったから、なおさら許せなかったのです。私の懊悩に気付こうともせず、それまで守られていたことを知ろうともしないあなたを、叩きのめしてしまいたいなど、誰に言えましょうか。

お父様はそれから間もなく、あっけなく旅立たれてしまいました。あなたは家を出ましたね。とはいえ、あなたの行き先はすぐに知れました。だって、あなたの乳母であった、後藤の母の家に行ったのですもの。後藤の家は、屋敷の敷地内にあります。わからないはずがありません。







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