花亜さんへ

あなたがこの手紙を読んでいるということは、私はもうこの世にはいないのでしょう。あなたはどのような思いでこの手紙をお読みなのでしょう。

花亜さん。私は愚かな母でした。至らない妻で、未熟な経営者でした。今になってようやく、それを認め、言葉にすることができました。ほんに愚かなことです。なぜもっと早く認められなかったのでしょう。そうすれば、不幸な人を減らすこともできたでしょうし、私自身、もっと幸せを感じながら生きることができたでしょうに。

あなたは、私があなたを愛していなかったとお思いでしょうね。無理からぬことです。そう思わせてしまったのは私の振る舞いを思い起こせば、当然と言わざるを得ません。でも、私はあなたを心から愛していました。愛するがゆえに、憎かったのです。その理由をお聞かせしようと思います。

あなたのお父様と私とは政略結婚でありました。もとより、恋愛など認められる時代ではありません。この家に生まれた私が嫁ぐ相手は、私の意思とは関係なく、おじい様がお決めになることでした。ですが、それは表向きのことです。本当は、ご用事で屋敷を訪れた若き日のお父様に私が惚れ込み、おじい様を説き伏せたのです。

おじい様は厳しい方でしたが、私のわがままは何でも叶えてくださる、お優しいところがありました。当時、お父様のご実家は、思いがけない負債を抱えておいででした。おじい様はその負債を補って余りある資金援助を条件に、お父様の婿入りの話をまとめてくださったのです。そうでなければ、私は都心のお堀の内に嫁していたかもしれません。それがおじい様の夢でしたので。

お父様の本当のご意思はどうだったのか、私は恐ろしくて確かめたことがありません。いつも静かに微笑んで、漂う空気は常に柔らかく温かく、春の陽だまりのようなお父様のお傍にいられること以上の幸せがあるとは、考えられませんでした。それが、おじい様の権威をもって、我がものになると決まり、私は天にも昇る気持ちでした。

ああ、それなのに。愚かな私は、私の思いを素直に言葉にすることも、振る舞いにすることもできなかったのです。それどころか、お父様をあざけるような言葉をわざわざ口にしたり、これ見よがしに冷たい態度をとったりしてしまいました。これではいけないと思う端から、言葉も行動も思いを裏切るのです。お父様の憐みを含んだまなざしを受ければ受けるほど、私は意固地になりました。







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