お屋敷はすぐにわかりました。丁度お屋敷の方が門のあたりにいて、案内してくださることになりました。私は口から出まかせで、おばあちゃんの用事で安住さんに会いたいのだと言いました。お屋敷の方は疑いもせず、すぐに安住さんのもとへ連れて行って下さるというのです。

途中、目にするものは「絵に描いたような」と形容するしかない、美しく素晴らしいものばかりでした。庭は公園か動物園か?と思うような広さで、孔雀の群れがたたずんでいたり、木の枝をリスが渡り歩いていたり。

そして、安住さんがいました。そこは、たぶん、テラスと呼ぶのでしょう。安住さんは白いテーブルと椅子に優雅にくつろいで座っている女性に、お茶を供しているところでした。ガラスの天井からは青空が見え、白い雲が流れています。テーブルの周りには、さまざまな観葉植物がのびのびと葉を茂らせています。

女性が、今このお屋敷の主である「花音さま」であることは、すぐに察しがつきました。容貌と言い雰囲気と言い、かあさんにどこか似ていたからです。そして、何事かを話しながら、微笑み合っている安住さんを見て、私は安住さんの「想う方」が誰であるのかに気付いてしまいました。

それほどに、安住さんが彼女を見守る姿には、いろいろなものが漂い出ていました。敬愛、庇護、憧憬…。きっと、安住さんにとって、彼女と結婚するとかしないとか、そういう形態はどうでもよいのでしょう。ただいつでも傍にいて、その笑顔を守るために自分が存在しているというだけで幸せなのではないでしょうか。

そんな愛の形もあると、わかっていたつもりでしたが、目の当たりにするとたじろぐばかりでした。私は身を翻し、案内してくださった方にお礼を告げると、あとは黙って駆けもどりました。おばあちゃんの病室へ。きっと、弱虫、情けないと叱られることでしょう。でも、しかたがありません、本当にそうなのですから。

案の定、姿を見ただけで戻ったという私の報告を聞いて、おばあちゃんは怒りだしました。「まったく、なんてだらしない娘だろうね。イライラするよ。しかたないだの、ダメだのと、勝手に決めつけては逃げてばかり。だから幸せが遠ざかるんだよ!!」私はうつむくしかありませんでした。







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