それは、安住さんがカピバラ食堂にやってきた6度目の日のことでした。折しも、かあさんもおやじさんもでかけていて、店には私ひとりきりでした。安住さんはかあさんにと、私に花束を預けると、そのまま帰ろうとしました。

「あの、お忙しいかもしれませんが、お茶だけでも召しあがりませんか?もしかしたらかあさんたちが戻ってくるかもしれませんし。」
安住さんは少しだけ考えてから、「では、お言葉に甘えて。」と向きを変えました。

席にご案内し、紅茶を用意しながら、安住さんの様子を見ずにはいられません。何度見ても美しい男性です。安住さんは、あの白くてきれいな指を組んで机に乗せたまま、壁の巨大なカピバラの絵を眺めているようでした。

「あの、安住さんは、お休みの日は何をなさっているのですか?」
私は勇気を振り絞って、でも振り絞っていることがばれないように気をつけながら尋ねてみました。安住さんは不思議そうな表情で私を見ると、ふと微笑んで答えました。

「お休みはないのです。用事があるときにお願いしてお時間をいただいています。」
「まぁ!それでは休まらないし、疲れてしまうわ!」
「いえ、そんなことは少しもありません。毎日充実して、楽しく過ごさせていただいておりますから。」

私は何と続けたら良いかわからなくなりました。お休みにすることを聞けたなら、私も一緒にお連れくださいとお願いする心づもりでした。でも、こうもあっさり「ない」と言われてしまうと…。
アールグレイの香りを確かめながらティーセットを運び、安住さんの前に置いた時、自分でも思ってもみなかったことを口走っていました。

「あの、では、今度一緒にお食事に行きましょう。お休みをいただいてください!」
自分の声が耳に入ると、全身に唐辛子をまぶしたようにカッと熱くなって、多分唐辛子以上に真っ赤になって、私はうつむいてしまいました。安住さんの笑い声がしました。







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