それから1ヶ月ほどの間、安住さんは週に1度ずつ、カピバラ食堂にやってきました。いつも後藤さんから何か用事を言付かっていて、かあさんに届け物だったり、伝言だったりを持ってやってきて、すぐに帰っていきました。

おばあちゃんがやってくるまで、カピバラ食堂にはほんの時々、後藤さんがそっとやってくるだけだったというので、安住さんが毎週来るのは少しおかしなことのように感じました。それに、あれ以来、後藤さんは一度も姿を現しません。このご時世に伝言と言うのも不自然でした。

安住さんはきっと私との「お付き合い」に乗り気で、何かと用事を作っては私の様子を見に来てくださるのです。ちゃんと仲人さんを立ててのお見合いでもないし、後は当人同士でということでしょう。まずは美しくなる!と決めていた私は、この1ヶ月を本当にワクワクと過ごしました。

とはいえ、何か特別なことを始めたわけではありませんでした。なのに、スルスルと4キロも体重が減って、自分でも驚くほどクッキリと腰がくびれて、服の着こなしがキマるようになりました。お化粧のノリはいいし、何も変えていないのに、髪にツヤが出て、しっとりと落ち着いています。

恋をすると女はきれいになると聞いていたけれど、自覚したのは初めてでした。何歳になっても女は女なのかな、などと考えるものの、気分は女子高生の頃に戻ったようでした。爽やかに目覚めるし、眠るのもまた嬉しく、働くのは楽しく、幸せとはこういうことを言うのかなと思いました。

しかし、これはほんの序章に過ぎないのです。もう少ししたら、私はもっと幸せになるんだわ!そう思うと、これまでの様々な辛い出来事の記憶も薄れていくようで、あれは自分とは関係のない話で、今とこれからこそが自分なのだと思われました。

安住さんは本当は、那須のご別邸というのにいるはずなのだそうですが、麹町のご本宅にいるはずの後藤さんがおばあちゃんにつきそっているので、今は後藤さんに代わって麹町にいるのだそうです。今度安住さんがいらしたら、勇気を出して次のお休みの日はいつか、聞いてみようと思いました。







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