安住さんは、なぜ執事なのでしょう。
なぜモデルや俳優ではないのでしょう。そんなの、宝の持ち腐れじゃない!と、私は思いました。生きている人間、それも男性を見て「美しい」と思ったのは人生初のできごとでした。

「安住はお嬢さんと同い年ですよ。」おばあちゃんが面白そうに言います。「なんです、初対面の人をそんなに見つめて。」おばあちゃんはどこまでも、人の都合の悪いことをズケズケと言います。
「あまりにハンサムだから、一目惚れしたのだろう?」

「そ、そ、そんなことありません!大変失礼しました!!」
立ちあがってもう一度深く頭を下げると、体温が5℃くらい上がったのではないかと思うほど、クラクラして、全身を沸騰した血液がかけめぐっています。困った!

「どうです、安住。思いがけずご本人登場ですよ。」
「どうとおっしゃっても、大奥様。今お目にかかったばかりですので。」
不可解な二人の会話に、私はそっと体を起こしました。

安住さんが微笑んでいます。美しい。すぐ隣に座って、何気なく膝に乗せられている白い指が長くて、第二関節が少し太く、桜貝のような色をした爪がきれいに切りそろえられています。私は思わず自分の手を体の後ろに回して隠しました。

「お嬢さん、後藤がね、安住にあなたとお付き合いしてはどうかと縁談を持ち込んだのですよ。あまり熱心に勧めるものだから、今丁度その話をしていたところだったのよ。」
「はぁ????」

私はエレガンスのかけらもない声をあげてしまい、あげてしまってからシマッタと気付き、ガッカリして椅子に座り込んでしまいました。どうして私はこうなのでしょう。こんな素敵な男性を前に、格好一つつけられないなんて。どうしようもない女です。

「それで、安住。どうなの?第一印象は?」
私はこの時だけは、おばあちゃんに感謝しました。でも、答えは聞きたくありません。
「そうですね、感じのよい快活な方だとお見受けしました。」







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