「母が私に心から詫びるようなことがあったら…それも、私が謝ってほしいと言ったからではなく、母から進んで悔いるような言葉を聞いていたら…弓子さん、あなたならきっと分かってくださると思うけど、私はきっと、嬉しい以上に苦しんだと思うわ。」

「そうですよね、分かります。きっと、反発するほうが簡単で分かりやすいです。反発した過去を消せない状態で、これから選択するものが2つ出てきて、どちらも捨てがたいとなったら、きっと戸惑うし、苦しいです。両立させるにも、周囲の方の理解を求めなくてはならないし。」

「その通り。今回母がやってきて、以前の母とは全く違っていて、私の助けを必要としている弱くて頼りない母になっていたら、私はきっととても戸惑って、悩んだと思います。今の生活を変えてでも、母を支えなければならないと、きっと考えたわ。」

「かあさんはお優しいから、きっとそうでしたよね。おやじさんも優しい方だから、かあさんがそうお決めになったら、反対はなさらないし、応援もしてくださるでしょう。そうしたら、カピバラ食堂で二人仲良く働く時間は途切れていたかもしれませんね。」

「ああ、本当にそうだわ。ねえ、弓子さん、私ね、ふと思いついてしまったわ。」
「何でしょう?」
「あのね、年齢を重ねた末に、認知症になって、自分の子どもや伴侶のことすら判別できなくなってしまう人がいるというでしょう?」

「はい。あれって、自分がいつかそうなったらと思っても、自分の家族がそうなったらと思っても、辛いです。」
「辛いけど、『他人のくせに、なぜここに来る?』とか『あなたはどなた様でしたかね?』とか、『お前など信用ならん!』なんて言われたら、いっそ諦めがつかないかしら?

これは専門家の力を借りよう、自分だけで抱え込むのは無理だ、って。ひいては、今の自分の生活は守りつつ、できることだけで向き合って行こうという気にならないかしら。思い切り拒絶されればされるほど、そちらにではなく、今の自分を大切にしたくならないかしら? 







人気ブログランキングへ