先日主人に、母が何かを恐れていると言われるまで、私は母があんなふうな性格なのは持って生まれた性質で、母が好んでそうしているものとばかり思っていたの。だけど、よくよく考えてみたら、少し違うのかもしれないと気付いたの。」

「それ、どういうことですか?私もおやじさんの質問は意外だったのです。おばあちゃんが何かを恐れているなんて、少しも感じなかったから。」
かあさんと話していると、どうして自分はこんなに素直になれるのかと思いながら尋ねました。

「ええ、私も同じよ。でも、あのハトの話を思い出したら、何か分かったような気がしたの。母はあの時、ハトの話をしているようで、実は自分自身について語っていたのではないかしら。母の財力、立場、そういうものを人は慕っているのであって、人間としての母を愛しているわけではないと、母はそう思っていたのではないかしら?」

「もしもそうだとしたら、それってすごく寂しいですね。」
「そうね。私には父がいて、私の何もかもを手放しに愛してくれたわ。私がなにをしてもしなくても愛してくれた。特別に確認しなくても、私は自分が愛されていることを最初から疑わなかったわ。

でも、母は違ったのかもしれない。子どもの頃の母のこと、実はあまりよく知らないの。とても成績の良い、優秀な人だったとは聞いたけど、性格とかお友達のこととか、よく知らない。そういえば、私、母のお友達って知らないわ。お仕事のつながりがあるから、人はよく訪ねてきたけど、お友達っていたのかしら?

母は、きっと誰も信用していなかったのね。母が財産を失ったら、立場を失ったら、経営の才能を持っていなかったら、誰からも大事にされないと思うような育ち方をしたのかもしれないわ。だから、人から切り捨てられる前に、自分から切り捨てる。仲良くなって裏切られるくらいなら、最初から仲良くならないほうがいいと思ったのかもしれないわ。きっと父のことも、信頼できなかったのだと思うわ。」

「なんだか、わかります。私にもそういうところがありますもの。」
私は、私の子どもの頃の出来事を、どうしてもかあさんに聞いてほしくなりました。
「私の子どもの頃のこと、聞いてくださいますか?」