後藤さんと話した夜から2日ほどたってからだったでしょうか。とうとうおばあちゃんとかあさんは衝突してしまいました。きっかけを見ていないので、何が原因なのかはわかりません。でも、前回かあさんが「出て行って!」と叫びながら自分が出て行ったのと対照的に、今度は本当におばあちゃんが出て行ってしまいました。

夜の営業を終えたあとのことでした。かあさんは大粒の涙をポロポロとこぼしながら、いつもの椅子に座りました。この店は、かあさんの元気がなくなると、店全体が灯が消えたように暗くなってしまいます。机も椅子も、壁のカピバラまでもが一緒に泣いているようです。

「私、ひどい娘ですわね。余命いくばくもない母と仲良くできないなんて、ひとでなしだわ。でも、どうしても、どうしても…。」かあさんは話を続けることができません。おばあちゃんが来てから、かあさんは本当に力を失い、しぼんでいくような印象でしたが、精魂尽き果てたように見えます。

「かあさん。俺は、あなたを妻にしたことをこれほど誇りに思ったことはないよ。ありがとう。」
おやじさんが言いました。かあさんは、ふと泣きやんで顔をあげました。私も驚きました。机もイスも壁のカピバラも、心なしか一緒に驚いたような気がします。

「何をおっしゃっているの?」かあさんは尋ねました。
「かあさん。かあさんは、俺の店とやり方、つまり、何だ、俺が俺らしいものを守ってくれたんだよな。相手が母親だろうと経営の天才だろうと関係なしに、俺を一番に尊重してくれたんだよな。こんなにうれしいことってあるかい?」

「まあ。」かあさんはキツネにつままれたような表情です。私は頭が混乱してしまって、聞いていることの意味が、実はよく分からなかったのです。なのに、一体何なのでしょう、胸を、頭を、肺の中を、たとえようもないほど澄んだ風が吹きぬけていくような爽快感を味わっていたのです。

「かあさんは、若い時から、自分の大切なものを自分の力で守り抜く生き方をしてきたんだね。それは、大人として、とても素敵な生き方だと思う。俺は頭が悪いからうまく言えないけど、かあさんのそんな強さに惚れたんだと思う。