総理大臣や皇室の方が遊びに来る??それはいったいどういう家でしょう?私の頭の中の想像図が、だんだんバッキンガム宮殿のようになっていきました。使用人が数名?そういう暮らしが日本にもあるんだぁ…。

「大旦那様はご気分がよいとリビングにおでましになり、お嬢様をお呼びになって、いろいろなお話しをなさるのが何よりのお楽しみのようでした。そのような席には父や私もお呼びになるので、いつも一緒にお話しを伺いました。

お嬢様は、海外でのお父上のご活躍の話をことのほかお喜びになりました。ソファーに横になりながらお話しされるお父上からお顔がよく見えるようにと、こう、ソファーの前の床にお座りになって、時折額をお胸のあたりに寄り添わせて笑っていらっしゃいました。

大旦那様はお疲れになると、私の父に続きを話すようご命じになります。父がわざと大旦那様の失敗談を面白おかしくお伝えすると、お嬢様はそれはもう大喜び。涙がこぼれるくらいお笑いになって、それを嬉しそうに眺める大旦那様のお顔を今も忘れることができません。

その頃、会社のほうは大奥様が一手に引き受けていらっしゃいました。とはいえ、ビジネスシステムが確立されておりますから、最終の難しい決断を迫られた時以外、大奥様の出番はなかったはずなのでございます。

けれど、経営の真髄を先代から叩きこまれていた大奥様には、入り婿の大旦那様のなさりようは、少し歯がゆかったのでしょう。ここぞとばかりに改革に着手されました。利益の上がらない系列会社を潰していかれたのです。

大奥様の強引ともいえるやり方で、グループの利益は爆発的に伸びました。けれど、悲鳴もあがったのです。そのひとつに、那須にある老舗旅館がございました。那須にはご別邸があるので、お嬢様もよくご存じの旅館でした。