どうも、勘助です。
かあさんが打ち明け話をした夜、おやじさんは何度も何度も迷った挙句、とうとう意を決したように尋ねたのです。

「かあさん、かあさんがそこらへんの家の出身でないことくらいは分かっているよ。嫌ならば無理に言うことはないが、どういった家なんだ?他の家族や親類はいまどうしている?」

かあさんは真っ赤になって俯いています。おやじさんの耳元にかわいらしい唇を寄せて、ひそひそと話しました。「ええっ!!!!」おやじさんは目をまんまるにしてのけぞり、お美代と一緒に後ろへひっくり返ってしまいました。

さて。
明日はばあちゃんが来るという、前日のことです。見覚えのある女性客がやってきました。以前は長い黒髪をしていましたが、今日はすっかり短くなっています。そうそう、この店で男と別れたんです、この女性は。

「あのう」その女性が言ったとたんに、かあさんが「あっ。いつお越しになるかとお待ちしていました。これ、先月いらしたときに、お連れ様がお忘れになった上着です。お届け願えましょうか?」

かあさんが取りだした上着を見た途端、その女性はひったくるように受け取ると、「融、融…」と上着を顔に押し当てて、泣き崩れてしまいました。あまりの泣き様に驚いたかあさんは彼女を抱き起こすと、奥へ入ってしまいました。

店を閉めてから、おやじさんとかあさんは、ようやく落ち着いた彼女と話を始めました。私にはいつものようにかあさんが座り、お美代にはおやじさん。隣から持ってきた兼続に彼女が座りました。







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