どうも、勘助です。
ここだけの話ですが、かあさんは料理が苦手です。苦手というより、できないと言ったほうが適切でしょう。だから、厨房にはいつもおやじさんだけです。

初めてかあさんが私に座った日のことは、忘れようとしても忘れられません。白魚のような指という表現がありますが、かあさんの指は透き通るように白く、やわらかく、優しくそっと私に添えられた時は気が遠くなりそうでした。

きれいに切りそろえられた爪は桜貝のようで、マニキュアで美しさをくっつけた指とは別物でした。包丁どころか、ハサミでさえ持ったことがないのではないかと思われる、たおやかな指でした。

おやじさんが「やってみたい?」と尋ねると、かあさんは好奇心いっぱいの声で「はい!」ニンジンの皮むきを始めました。かあさんはニンジンをまな板に置いたまま包丁を左右にこすりつけました。おやじさんはたまげました。

「かあさん、何をやっているんだい!」「あら?何か?」「いや、ニンジンの皮は…いや、いいよ。包丁ではなくピーラーにすればよかったね。」「ピーラー?」「いや、いいんだ。料理の前にコーヒーにしましょう。」

「では、お湯を。」「かあさん、コーヒーのお湯は鍋ではわかさないのですよ。」「まぁ、存じませんでしたわ。では、どうすればよいのでしょう?」「ここではこのやかんを使います。」「まぁぁ、ステキ!」

ある程度の覚悟はしていたようですが、おやじさんはずっこけてしまいました。でも、心の底からとめどなく笑いが噴き出してきました。その様子を見て、かあさんもまた、鈴を転がすような声で笑ったのです。







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