金毘羅参りでもあるまいに、この長い階段の下に家があるのは実に厄介です。いつもは隣の駅から下の道を歩いて帰宅しますが、姉さんの家からはこちらが近いので、なんとなく階段の上に来てしまいました。

階段わきの小さな公園に入るのは久しぶりです。姉さんに連れられてよく遊びにきました。こんなに小さかったでしょうか。誰もいないのをよいことに、滑り台の上に座ってみました。遠くまで遮る物のない視界に、小さく都心の高層ビルが見えます。あっちは横浜のホテル。どん、どんと、花火の音が響いてきます。部屋で飲もうと買ってきた缶チューハイを開けたくなりました。

あんな性格の両親の最初の子だから、姉さんはきっと苦労が多かったろうと思います。僕を背負って小学校に行ったことだけではありません。両親のキャパが小さくて、扱いやすい、素直ないい子でいないと、かわいいと思ってもらえなかったのではないでしょうか。

でも、子どもというものは、本来扱いにくく、親にではなく自分に対して素直で、決して「いい子」なものではありません。姉さんが、親が思うようでないことをするたびに、否定的に扱われていたとしたら、きっと安心して家にいることはできなかったでしょう。いつまた叱られるか、否定されるかと恐怖を感じたことでしょう。

それがもっと続いたら、自分がダメなせいでこんなふうに叱られるのだと、自然と自己否定し始めたことでしょう。不安と恐怖に染まった心で、精一杯いい子でいようとして、勉強してお手伝いして子守りもして、褒められよう褒められようとしていた小さい姉さんが見えるような気がします。なのに親には一向に認められず、友達にもいじめられているうちに、姉さんの心に、ある強い感情が根付いたのではなかったでしょうか。 







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