「みっともないところを見られてしまったようね。」
弓子姉さんは小さな声で言いました。
「どうしてほしい?話を聞いてあげようか?それとも、そっとしておくのがいい?見なかったことにする?」
「どうしてほしい?か。融に聞かれるとこんなに素直に受け入れられるのに、どうして彼の同じ言葉は受け入れられなかったのかな?」
姉さんは、カピバラオムレツのお尻のほうを小さく取って口に運びながら考え込んでいます。

「訊いていいかどうか分からないけど、なんて言われたの?」
「あのね、『お前はいったい、どうしてほしいんだい?』って、さっきお店に着いたとき突然ね。無理な要求をするつもりはなかったの。ただ、とっても調子が悪い日があって、仕事に行けなくなって。同じ職場なんだから、私が来ないことはわかるはずなの。でも彼からは何の連絡もなくて。せめて、メール一本こないかなって期待していたのにって言ったの。言わなきゃよかったのかな。」

僕の心に何かが小さくひっかかりました。でも、そのひっかかりが何なのか、よく分かりませんでした。
「そうか、姉さんは期待してたんだね。期待していたのに、って、そのまま言ったの?」
「う〜ん、そのままっていうわけじゃ。忙しかったのよね、分かっている。けど、心配してほしかったな、メールも来なくて淋しかった、って言ったかな。」

心の中のひっかかりが、だんだん大きくなっていくのを感じました。姉さんがとても淋しく思った気持ちは分かるのです。たとえば僕だったら、来るはずの姉さんが来なかったら、メールどころかすぐに電話をするし、通じなかったらアパートまで会いに行ったでしょう。でも…

「弓子姉さんはあの人と付き合ってどのくらいなの?」
「2年くらいかな。」
「結婚しようってことになっていたの?」
「はっきりは…。彼が言い出してくれるのを期待して、ずっと待っていたんだけど…。」
「ずっと待って…。姉さん、あの人のこと好きじゃなかったの?」
「何言っているの?好きだったわよ。でも、彼は優秀な人だから将来性があるの。自由に伸び伸び好きなことをしてほしいし、そのために私が邪魔になるなら、遠慮なく切り捨ててほしいと思って。」
「付き合い始めた時からそう思っていたの?」
「そうよ。当たり前じゃない。愛していたんだもん。」

僕は、姉さんの顔を見つめてしまいました。
僕の姉さんはこんな考え方の人だったのでしょうか? 







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