いわゆる、取り込み中だった。だから、音がするまでは、気付いてさえいなかった。その店の出口を通った時、数台の自転車を目にしていた。無秩序に止まった自転車をよけるほど狭くもなかったので、自転車だと思っただけだった。

確かに、風が強く吹いていた。ああでもない、こうでもないと大声で真剣に話し合っていた私の耳に最初に聞こえたのは、自転車が倒れる音だった。ガシャガシャと、2台めの自転車が倒れる音が聞こえて、振り向いた。

自転車に完全に背を向けていた私が振り返って最初に見たものは、赤ちゃん籠がついた自転車がスローモーションで倒れるところ。しかも、その籠には赤ちゃんが乗っていた。ゴツッという鈍い音と、赤ちゃんの後頭部がアスファルトに跳ね返るのが見えたのは同時だった。

もう何秒か早く見ていてら、きっと体が動いて、赤ちゃんを助けられたかも知れない気がする。ああ、それでも、間に合わなかったろうか。赤ちゃんは火がついたように泣きだし、一番にかけつけた私が抱き上げようとしたけれど、足が籠に絡んで起こせなかった。そこへ、蒼白になった母親が駆け戻ってきた。

母親が赤ちゃんを抱き、私が足をほどいて、ようやく自転車から持ち上げることができた。後頭部から落ちましたよと言っても、母親は茫然として、確認もしない。私が頭をさわって、傷を確かめる。切れてはいなかった。が、頭の場合、それがかえって徒となることがある。

私の末の弟は、1歳の誕生日を迎える1か月前に、玄関の段差からコツンと落ちたことがある。ギャ〜と泣いて、切り傷もなく、しばらくして泣きやんだので母は油断した。夜になってたんこぶができ、翌朝になったら頭が1.5倍に腫れていた。頭蓋骨骨折。頭の中に血瘤ができていた。重症だった。

気をつけてあげてください。すぐには腫れなくても、あとから大きく腫れることもあります。私の弟は頭蓋骨骨折でした。そう話すと、母親は我に返ったように赤ちゃんの頭をさすり始めた。泣きやまない赤ちゃんを、出てきた店員も遠巻きに見ているだけだった。

今頃、どうしているだろう。無事だろうか。びっくりして、痛くて怖かったろうな。
お母さん、子供を残して買い物に行くのはやめましょうね。それがとっても大変なことは、重々承知しているけれど。






人気ブログランキングへ ←ポチッと応援、お願いします!