「ぎゃ〜っ」
朝早くから女性の悲鳴が響いた。指名手配の逃亡者が見つからない時期でもあり、思わずギョッとする。目を凝らすと、女性を襲っていたのはカラスだった。

職場の目の前での出来事で、何人かの同僚が同じカラスに襲われたらしい。頭のすぐ上を通り過ぎたとか、両足でツンツンされたとか。「なんで?私も通ったのに何もされなかった!」という若手に「カラスも無駄は省きたいのよ」と言うと、「私を襲うのって無駄ですか〜?」「だって、何で襲われたか気付かないでしょ?」

ヒナが、巣から落ちてしまったのだ。母カラスは狂気している。そりゃ怒るだろう。だって、どうしようもないのだから。せめて地面に落ちた子が無事であるよう、近づく人を遠ざけてやるくらいしかないのだから。

これはかなり危険ということで、管理職が区役所に連絡を入れている。手間取るようだ。そのうち、隣の敷地の消防署から隊員が来て、ヒナを拾い、巣にもどしてくれた。母カラスは静かになった。が、ヒナに近寄ろうとしない。

野鳥は、人間に触られたヒナを育てることはほとんどない。人間ってよほど臭いのだろう。近寄ろうともしない。つまり、巣から落ちたヒナは生き延びる道がないのだ。自然淘汰。母は悲しかろう。しかし、抗えない。

案の定、午後2時にはまた巣から落ちてしまった。母カラスは怒り炸裂。職場を出たとたんに、母カラスが襲撃してくる。わかるよ、わかる。悲しくてどうしようもないんだよね。でも、襲わないでくれ〜。出張に行きたいだけなんだ!

そこへ、区役所の職員がやってきた。ヒナをそっと包むと、車に乗せて行ってしまった。母カラスは電線にとまって、その様子をじっと見ていた。鳴いて、鳴いて、啼いて、大きな翼を広げて、夕焼け空の頃ようやく去って行った。





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