電車の中は丁度良い読書の場なのだけれど、最近は読む気にならない。バッグの中には必ず文庫を入れるのに、それも忘れがちだ。きっと、今ここで起きていることが劇的すぎて、小説を必要としていないのだろう。

出勤の電車から、外の風景をぼんやりと見ていたら、大きな桜色の看板が見えた。気をひかれたのは、こんなことが書いてあったからだ。
「Ue Love SAKURA!」

あれ?なんでUeなんだろう。Weじゃないの?ってことは、英語じゃないのかな。それとも「私たち」以外の意味があるのか???平安言葉は辞書なしでだいぶわかるのに、異国の言葉はさっぱりわからない。

と、胸の中がざわざわと波だって、遠い昔のひとこまが映画のように思い出された。中学1年のこと。初めての英語の授業。英語の先生は担任で、のちのち、指導力不足教員として退職している。

女に教育はいらないが、日本人に英語の教養はもっといらないと思っていたフシがある両親は、小学生の私にアルファベットを教えるようなことはしなかった。だから私は、ABCまでは書けたが、その後は書くどころか知りもしなかった。

Hello. I am Tony. She is Judy.
たったこれだけのことだが、ノートに書き写せという課題を進めることができない。周囲をそっと見回す。みんな、当たり前のように鉛筆を動かしている。

怖い。あまりにもわからなくて怖い。いくら努力してもひとつも分からないのではないか?頭の中にあの恐怖が蘇る。春。桜。英語。新しい出会い。恐怖。でも、それだけではなかったのだなと、今更ながら気がついた。





人気ブログランキングへ ←ポチッと応援、お願いします!