竹よ。もう寝ちまったか。今夜の仕事は寝ざめが悪い。したたか飲んで寝たくなるのも分かる。俺は目が冴えてなぁ。寝付けないから、いましがた、お前が聞きたがった話でもしてやろう。聞いちゃいまいが丁度いい。

国の名前は勘弁してくれ。俺の父親は城代家老でな。長男の俺は将来を約束された若様だったわけだ。それが、一晩で消えうせた。父が逆臣に刺されて亡くなったのだ。下手人は妻を連れて出奔した。我が家は断絶になった。

お前が見た書きつけはな、仇討赦免状というのだ。俺が見事かたき討ちを果たしたら、家名再興となるわけだ。母も幼い妹も、親類縁者もかたき討ちに出る俺を見送り、俺とても勇ましい気持ちで旅立った。必ずかたきを討つはずだった。

しかし、何年たってもかたきには出会えない。初めの2・3年は仕送りもあったが次第に絶える。10年を過ぎたころには路銀は底をつき、病に倒れもすれば腹も減る。とうとうとある寺の門前で行き倒れた。親切な和尚が助けてくれてなぁ。

息を吹き返した俺に、和尚が語った話が俺の運命を変えたのだ。和尚は10年ほど前、俺と同じような行き倒れの夫婦を助けたそうな。女は身重で、寺で子を生むと息絶えた。男は武家だったが、子を連れて農夫になったというのだ。

和尚は男からいきさつを聞いた。妻を手厚く葬ってくれた和尚に、男は話したそうだ。国許で妻が城代家老に辱められたこと。屈辱に耐えず家老を討ったが、愛する妻を手にかけることができず、連れて逃げたこと。妻が身ごもったこと。

妻が生んだ子どもなら、誰の子であれ我が子だと言って、もらい乳をしながら娘を育てた男と娘を俺もこの目で見たのだよ。妹かもしれぬ。どうしても、どうしても仇討はできなかった。なぁ、竹。俺はもう、何も信じられないのだよ、何もな。





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うわ、今日はもう少し行数がほしかった