敬愛する看護師長殿
君にはいつも本当に驚かされる。元気そうで何よりだ。封筒から、君の爽快な笑い声がこぼれてくるような気がしたよ。

ここにきて半年が過ぎた。無我夢中で目の前のことをやってきた。老人が多いので具合が悪い人も多いが、心は皆、わたしよりずっと健康なんだよ。ここでは馬も牛も、鶏も人も、命あるものすべてが私の患者だ。

都会にいる時には分からなかったが、都会の常識は、本当は非常識なのかもしれない。自分の心にずっと鳴り続けていた警鐘にしたがってよかったと、今は心の底から思っている。命は脈動するものだ。そして、始まり、終わるものだね。

君には大いに世話になりながら、不義理をして恨みを買ってしまったようだ。まさか君が病院を辞めるとは。よく院長が許したものだ。いや、君のことだから、辞表をたたきつけて、有無を言わせず出てきたに違いない。

私は君が考えるような立派な男じゃないよ。君も一緒にと、何千回考えたかしれない。しかし、とうとう言い出せなかった。意気地がないんだ。君に断られて、永遠に君との縁が切れると思うと、言葉が胸の中で凍りついてしまった。

そうなんだ。NOと言われて失うよりも、YESもNOも聞かずに、YESかもしれないと可能性を残して甘んじることを選んだ。それが君への思いやりでもあり、自分のプライドを守ることでもあり、患者や病院のためと思いこもうとした。

しかし、今は違う。残念ながらご要望に応えて君のための借家を探すつもりはない。診療所の一室で我慢してほしい。つまり、私の家だ。それでよかったら、今すぐ来てほしい。私には腕のよい看護師と愛する家族が必要だから。




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お幸せに〜