先生、あんた、なんでこんな因果な商売してるんだい。自分のことはちっとも話さないから、こっちはあんたのこと何も知らないが、家に帰ればガキや奥方もいらっしゃるんだろうに。

その懐に入れて肌身離さず持ち歩いている書きつけには、何が書いてあるんだい?昔のコレからもらった恋文かい?それともどこかに財宝でも隠したか。ま、見せてもらったところで、おいらは字なんか読めないが。

先生よ、おいらは時々先生を見ているとゾッとしちまうんだよ。特に刀を研いでいる時がいけねえ。あの眼はなんだい。10人20人殺したって、ああはならねえよ。怖いお武家は他にも知っているが、あの眼は先生だけだ。

噂じゃご大身の出だそうじゃないか。それが、今ではおいらのような下賤の者と寝起きを共にする殺し屋稼業。おっかぁから、お前は虫けら以下だと言われたおいらはしかたねえが、先生のような方がなぁ。

おいらは知りたいんだよ。人間、何があればそんなふうに落ちられる?何があればそんな眼になるんだい。人のことをこんなに知りたいと思ったことは今まで一度もなかったおいらだが、気になってしかたねえんだ。

おいらはさ、実のところ先生が好きなのさ。好きってもお稚児趣味みたいなもんじゃないよ。先生はよ、でっけぇ船みたいなお人さ。のっかってりゃ安心、沈んでも、この船が沈むんじゃしかたねえと素直に諦めきれるのさ。

おっと、その眼でおいらを見るのはやめてくれ。おしゃべりが過ぎたんだろう?分かった分かった、もう黙る。頼むから、刀に手をかけるのはやめておくれ。あと一時もしたら仕事なんだからな。




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子供のころから大の時代劇ファンでした。用心棒のお武家さまを「先生」と呼ぶのを、なんだか不思議な気持ちで見ておりました。