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 「オリ?オリって、動物園のあれ?」

 


 「ええ。何年か前に旅行中に見た小さな動物園の、しまうまのオリです。」

 


 「説明してくださる?」

 


 「そのオリの前で、私は友人に話したんです。あのしまうまはサバンナに帰りたいだろうなって。こんな狭いオリの中では不自由だし、つまらないと思っているだろうって。

 

 そうしたら友人が、あのしまうまはサバンナよりもここがいいかもしれないって言うんです。なぜ?って聞いたら、ライオンに食べられる心配もないし、餌を探して歩く手間もいらない。こっちの方が生きやすいよって。

 

 だから私、言ったんです、もしそれがしまうまの本心なら、あのオリは好都合のいいわけになるわね、だって、『オリがあるから帰れない』って思えば、自分が野生を忘れた怠け者だってことに気付かずに済むもの、って。その時のことが浮かんできました。」

 


 「その思い出が、今とても重要な意味を持っているとしたら、その意味は何かしら?あなたはもうその意味に気付いているはずよ。そう思ってみて。」

 


 「私はもう気付いている??」

 


 あきさんは、そう言っている端から、わかってしまいました。

 


 「わかったわ!わかりました。私の本心は、好きなように振る舞いたいのではなくて、好きなように振る舞った上に傷つきたくないんです。どちらかというと、傷つきたくない方が強いのかもしれないわ。」

 


 「それで?」

 


 「だから、相手や条件が変わっても、私の気持ちの部分は変わらずに、傷つくことを恐れてビクビクしているんだと思うんです。」

 


 「そうかもしれないわね。」

 


 「きっとそうです。あ!」

 


 あきさんは突然、とんでもなく大きな声をあげました。未来さんが驚いて、イスから飛び上がりました。

 


 「どうしたの?」

 


 「未来さん!私、なんてことしていたのかしら?」

 


 「何?説明して。」

 


 「私、しまうまと同じだったんです!!」

 


 「同じ?」

 


 「同じです!私はハヤトが好きだ、ハヤトを手に入れたいと口では言いながら、内心はそんなことをしたら傷つくにきまっていると思っていたんだわ。

 

 そういう私に、ハヤトに奥さんがいるっていうのは、好都合だわ。だって、奥さんがいる男性に言い寄るなんて、よくないことというのは世間でも認めるでしょう?

 

 それをいいわけにしておけば、自分の臆病な気持ちに気付かなくて済むし、チャレンジしろとか、当たって砕けろとか、勇気がない弱虫だから言えないんだとか、考えないで済むもの!!」

 


 「そういうことなのね。」

 


 「ハヤトだから、奥さんのことをいいわけにして悩んでいることで、自分の本心と向き合わずに済ませようとしたけど、きっと、どんな男性とおつきあいをしても、何か理由を見つけては、同じことをしたんだと思います。

 

 もしかしたら、私がハヤトを好きなのは、ハヤトが素敵な人だからなのもあるけど、傷つくのを恐れて何もしたくない私に都合がよい条件をもっていたから、なおさら執着しているだけなのかしら?」 

 


 「あきさん、それに気付いた今、あなたはどんな気分?」

 


 「不思議ですね。すごく嫌なことに気付いたはずなのに、あまり辛くありません。」

 


 「では、ここで一気に人生を変えてみるというのはどうかしら?」

 


 「ええっ!?人生を変える?」

 


 「あなたは本当は本心のままに生きたい。でも、傷つくことが怖くて、本心のままには生きられていないのね。大好きなハヤトさんも、恋ではなくて執着なのだとしたら・・・」

 


 「あんまり、素敵な人生じゃないわね〜。」

 


 「あきさんの素敵な人生って、どんなかしら?どんな言い方でもいいから、表現してみない?」

 


 「え〜っと」

 


 「好きな小説の登場人物とか、場所とか、色とか、漢字とか、いろいろ思い出してみて。子どもの頃のとっても楽しい思い出だとか。」

 


 「そうですねぇ。」

 


 子どもの頃と言われて、あきさんは心に暗雲が立ちこめる気がしました。

 

 今日も読んでくださってありがとうございました。
 あなたに、あらゆるよきことがなだれのごとく起きますように。