「つらい夢だったようね。」
「はい。とても悲しい気持ちです。」
「あなたが見た夢のいろいろなシーンの中で、あなたを一番とらえているのはどれかしら?」
「ハヤトのこと・・・」
「自殺した理由をわかってもらっていなかったことや、ご両親があなたをがっかりさせたことよりも、ハヤトさんの言葉が気にかかっているのね?」
「はい。改めてそう聞かれて、よりいっそうはっきりしました。」
「ハヤトさんの言葉の、何が気にかかっているのか教えてくれる?」
あきさんは、夢の記憶をたどりました。
ハヤトさんがどんな言葉でそれを言ったのか、正確に思い出すことができません。奥さんを大事にして生きていくとか、私のことが好きだったのに裏切られたとか、そんなことを言われたような気がします。どんな言葉で表現されていたとしても、心が波立つ言葉でした。
「ハヤトが、本当はわたしを好きだったと言ったことかしら。」
「もしも、間違っていたら聞き流してね。」
「はい?」
「いまのあなたから、何か大事なものから目を逸らしているときのようなやましさが伝わってくるのだけど、何か思い当たる?」
「え!?」
あきさんは、思い当たりませんと答えようとして、その端から、そうなの、私は大事なことから目を逸らしていると、気付いてしまいました。
「あ、何か思いついたように見えるわ。どう?」
「そうなんです。わたし、何か、大事なことから目をそらそうとしているみたい。」
「その大事なものを探ってみたい?」
「はい。ちょっと怖いけど、知りたいです。こんなモヤモヤした気持ちでいるのはいやだもの。」
「じゃ、やってみましょうか。」
「何をですか?」
「やましさが伝わってくるというのが合っていたということは、その大事なものをはっきり分かってしまうのは、あなたにとって都合が悪いということよね。」
「なるほど、そういうことでしょうか。」
「どんなふうに都合が悪かったのか、考えてみるというのはどうかしら?」
「どんなふうに都合が悪かったのか?」
「ええ。ハヤトさんってどんな方?」
「う〜ん」
あきさんは、ハヤトさんのことを思いました。大好きな顔。吸い込まれそうな眼。隣にいるときのほんわかとほぐれる気持ち。笑顔を見せてくれたときの嬉しさ。ふと触る指先の柔らかさ。活動的で、行動派。でもどこか抜けていて、それが愛嬌になっている。優しくて、人の悪口は言わないし、すごく信用できる。
あきさんの言葉を聞いて、未来さんは静かに微笑みました。
「とてもステキな男性なのね。」
「ええ。わたしは彼に出会えて、とても幸せだったわ。」
「本当に幸せだったの?今、声に雲がかかったような印象を受けたけど?」
「え!?」
あきさんは、驚かされてばかりいます。
未来さんは、あきさんの心の中を切り開いて、映画のようにはっきりと映し出して見ているのではないか?と思うくらい、的確に大事なところを突いてきます。でもそれは少しも脅迫的ではなく、不快でもなく、それもまた驚くべきことのように感じました。
「彼と出会って感じた幸せ以外に何かあるのかしら?その辺になぞを解くカギがありそうね。」
「幸せ以外の何か・・・」
そうなのです。ハヤトからは幸せや喜びもたくさんもらったけど、正反対のものもたくさんもらった。
「手に、入らない。」
あきさんは、自分の口が発した言葉を、耳で聞いて、体を震わせました。
今日も読んでくださってありがとうございました。
あなたに、あらゆるよきことがなだれのごとく起きますように。






