Win-Win

あなたも幸せ。私も幸せ。

2014年02月


優から、そういう自分の在り方にガツンと痛い言葉を受けたのは昨日のことだ。
迷惑?ひとりよがり?ウザい?
そんなふうに思われているとは、少しも気付いていなかった。
ずっと長く、私を支えてほしい。
ミドリにとっては最大限の告白のつもりだったのに。
失恋したのか?ということ以上に、自分の何が優をそこまで怒らせているのかを知りたかった。
自分の理想が間違っていたのだろうか?
それとも、行動がいけなかったのか?
あるいは、存在そのものがいけないとでもいうのだろうか?

「私は答え合わせはしませんよ。」
真吾先生は相変わらず穏やかな微笑みを浮かべながら言う。
「私はその優さんを知りませんし、その場にいたわけでもないしね。あなたや彼が何を感じるかは、それぞれのものです。私が『これが正解』なんて言えるはずはありません。それは、分かっていただけますか?」
ミドリは頷いた。

「その上で、あなたがこのことを考えるために参考になるような材料を提供してみることはできると思うのですが。興味はおありですか?」
そんなこと、聞かれるまでもない。
お願いします、とミドリは小さく頭を下げた。

「あなたのような経験をされた方は…」
真吾先生はそこで言葉を切り、ミドリの目を正面から見つめてきた。
それ以上の説明が必要かどうか、測っているような眼差しだった。
わずかに目を細めて、その必要はないと見極めたらしい真吾先生は、言葉をつないだ。
「あなたのような経験をされた方は、知らず知らずのうちに、もう一度同じ状況を体験しようとする傾向があることが、証明されています。」
「同じような状況?」

ミドリの反応は疑問形だったが、明らかな反対の意思が込められている。
そんなはずはないでしょう。
私がどれだけ苦しんだと思っているんですか?夫の暴力、低収入、誰にも相談できない辛さ…挙句に夫は勝手に死を選んで、ひとりで逝ってしまった!最後に詰りに詰った私のせいだといわんばかりに!!

「そんなはずはないと思われますよね。当然のことです。意識してのことではないのです。」
「意味がわかりません。」
ミドリの言葉は勢いがよすぎた。
「あなたの、どこか奥深くで、あなたとは関係なしに起こることと思いながら聞いていただいた方がよいと思います。続けますか?やはり聞くのはやめますか?」

真吾先生はずるい、とミドリは思った。
そこまで聞いて、やめられるわけがないではないか。
「大丈夫です、続けてください。」
ミドリは、お願いしている自分にどこか腹が立った。

「人は、誰もが懸命に、正しいと思うことをして生きていますね。」
真吾先生は、ミドリの反応をみている。
「はい。」
ミドリが肯定するのを待って、次の言葉をそろりと出す。
「一般的によくないと言われるようなことをするときは、それがよくないと知らない時か、どうしようもなくそうなってしまう時かに限られる。どうでしょう?」
「そうかも、しれません。」

きっと、そうなのだろう。
私がスミレに対してそうだったように、夫・哲也も、きっとどうしようもなく、私を殴ってしまっていたに違いないと、今は思う。 






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ながらく更新をお休みしてしまい、申し訳ありませんでした。
雪の影響で仕事が休みになったので、
ようやく更新に漕ぎつけました。
これまでのお話を忘れてしまった方も多かろうと思いますが、
気にせずまたお読みくださったら嬉しいです。



「なるほど。それで、夜はよく眠れましたか?」
有田病院の診察室で、レースのカーテン越しに明るい日差しが差し込んでいる様子をちらちらと見ながらゆっくりと語り終えたミドリに、真吾先生は静かに尋ねた。
「はい。実は、あれこれ考えて眠れないのではないかと思っていたんですけど、布団に入ったらすぐに眠ってしまって。自分でも意外でした。」

最近気になってしかたがなかった優が、父・新吉が出張で東京へ行ったのと同時に家に訪ねて来なくなった。
優が尋ねてくるのは仕事のためで、自分に会いに来ているわけではないことくらい重々承知していた。
けれども、明るく健康で、バリバリと仕事をしているらしい優の存在は、暴力的だった夫とも、入院中に見かけた人々とも違った、健やかな風をミドリの心に運んでくれた。

気を引きたくて食事の用意をしていたわけではない、と自分では思う。
ただ、少し、一緒に時間を過ごしたかっただけだ。
そのための理由がなにか欲しかったにすぎない。 
話してみると、高校の時にサッカー部にいたというだけあって、共通の話題には事欠かなかった。年齢も近い。
ミドリは忘れかけていたある種の感覚を取り戻していく自分に気付いていた。
それは、自分がまだ生きている、若い女性だという自覚だった。

かわいげのある女でいることが、一番なのだと思っていた。
甘え上手で、ちょっと手を貸してあげたくなるような女性。
それでいて、好きな男性にはかいがいしく世話を焼く。
母親のように温かな女性。
忍耐強く、笑顔を絶やさず、男性の気持ちを明るくさせるような女性。
それがミドリの理想像だった。
この理想が、あれほど反感を抱いていた自分の母の姿そのものであることに、ミドリはまだ気付いていない。 

真吾先生が、スミレを学校に適応させてくれたマリアンヌの夫だと知ったのは、ミドリが長野に来てしばらくたってからだった。
それを知る前に、真吾先生の診察を受けていた。
真吾先生はリハビリが専門で、精神科ではない。
けれども、ミドリほどに回復した後ならば、カウンセリングと投薬はできるとのことで、東京の病院から紹介されていた。
真吾先生は聞き上手で、ミドリは東京の主治医より心を割って何でも話せそうだと心底安心した。

不思議な縁に、誰もが驚いた。
そんなつてで紹介されたマリアンヌを見て、ミドリはこれだと思った。
ミドリの目に、マリアンヌは、自分の理想の女性像を見た。
明るく屈託のない笑顔、健康そうな肢体、とんでもなく聡明な頭脳の持ち主。
なのに、医師としての定職にもつかず、ボランティアなどしている。
このアンバランスさが、真吾先生ほどの男性を虜にしているのだろうと思った。
私もそんなふうになったなら、素敵な男性ともう一度恋に落ちることもできるかしら。
ミドリは安曇野の澄んだ空気を胸一杯に吸い込みながら、青空を見上げてはあれこれ空想を広げていったのだ。 








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小説の方は中断中ですが、月が改まりましたので、読書記録を。
2014年1月の読書は5冊でした。
1年の読書始めを『下町ロケット』でスタートしたのはナイスチョイスでした。
なぜ働くのか、どう働くのかについて、小さなヒントを得ました。
『疾風ロンド』では、楽しむことの意味とか意義とか、周囲が苦痛のどん底にあるときに、自分の楽しみをどう受け止めればよいのかについて、東野圭吾自身の考えを読みとることができます。そうだよねと、心強く思えました。

年度末に向かって仕事が最高潮に忙しくなっています。
通勤の読書も目が辛くて、瞑目していることが増えました。
考えをまとめて資料にしなければならないことも多く、本を通じて思考を別世界に遊ばせている余裕が減っているのも事実。
ですが、ちょっと短い2月は冬季オリンピックが開催されますから、そこにちなんでスポーツ小説なんかどうかしら?と思っています。



 
Hikariの読書記録 - 2014年01月 (5作品)
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