私は後藤さんに尋ねました。
「あの、差し出たことをお聞きしますが、あの、お母様、いえ、大奥様、あれ?何と呼んでいいか…おばあちゃんはかあさんのことをどう思っていらっしゃるのですか?」
後藤さんはとても優しい笑顔で答えました。
「弓子さん、でしたね。大奥様のご本心は、大奥様にしかわかりません。それに、仮に私が存じ上げていたとしても、それは申し上げることができません。」
「でも、私はおばあちゃんとかあさんの関係が今のままでは悲しいと思うのです。おばあちゃんはご病気だし、かあさんがお嫌いなら、一緒に暮らしたいなんて思わないだろうし、でも、仲良くしたいと思っている様子もあまり…。」私は混乱した思いをそのまま口に出していました。
「かあさんがかあさんらしいと、おばあちゃんには気に入らない。おばあちゃんがおばあちゃんらしいと、かあさんは辛くなる。これって、すごく悲しいです。どうしたらいいのかしら?何か仲良くできるいい方法ってないのかしら?」
私は真剣に考えていました。大好きな人が悩んでいるときほど、力になってあげたいことはありません。私はそのとき、自分がつい最近まで、弟を亡くした悲しみに暮れ、何一つする気になれなくなっていたことなど、すっかり忘れていました。
「後藤さん、後藤さんはどう思いますか?ずっと長くお二人のことを知っているのだから、何かお二人が分かりあえるチャンスとか、仲良くできる方法とか、ご存知なのではありませんか?」私はちょっと必死なほど一生懸命に尋ねました。
「弓子さん。人は、大切なことほど、自分で気付きたいのではないでしょうか?」
後藤さんの答えに、私は肩を揺さぶられたような気がしました。ハッと目覚めさせられたような衝撃です。そうだ、人は、自分で気付きたい。教えられるのではなくて、自分でつかみ取りたいのです。教えられてばかりだと、自分がダメな人に思えてきて、出来事以上に自分自身が悲しくなってしまうからです。