Win-Win

あなたも幸せ。私も幸せ。


恋待先生は、僕の言葉を辛抱強く待っている。
ヒグマのように大きな体を包んでいる白衣の前がはだけていて、中の丸くて大きなお腹が突き出している。
中に着た薄い水色のワイシャツは、きっと超特大サイズなのだろう。

「ここで抗がん剤の治療を受ける時、先生言いましたよね、しばらく子どもは作れないけれど、予定はないかい?って。」
「ああ、聞いた。」
「僕は当然ありませんよと答えた。何てこと聞くんですか?って。」
「そうだったかな?」
「あれ、どういう意味だったんですか?」
「意味?抗がん剤が精子の数を減らしてしまうことがあるから、子どもができにくい、ということだな。
でも、それだけではなくて、抗がん剤が精子の形成に与える影響を考えて、治療中は避妊が必要、ということでもある。
それに、抗がん剤は白血球を減らすから、感染症にもかかりやすくなる。性行為中の感染を避けたくもある。
くわえて、赤血球も減らすから、すぐに疲れたり呼吸が苦しくなったりしやすい。
子どもをつくるには向かない条件がそろっているということだよ。」
「そうなんですか。…なんだか、よく分かっていないくせに、予定はないって言っちゃいまいた。まぁ、事実だったし。」

「今、それを確認したいとこうことは、そういう予定ができたということ?」
恋待先生の全身から、なんだか温かいオーラが漂ってくる。
「いや、そういうわけじゃないんだけど…。
でも、夕べ、ふと気づいたんですよ。
僕、その、性欲っていうやつ、あんまり感じないなぁって。」
「おや、そうなのかい?」
さっきの温かなオーラがすぅっと30cm引いて行った。

「いや、女の子に興味がないってことはないですけど、なんていうか、高校生の頃みたいに切実に興味があるなんて気持ちにならなくなったというか…。」
「ほぉ。」
「あんまり考えたことなかったけど、改めて考えたら、病気の治療の前後で変わったと、昨夜気付いたんですよ。」
「なるほど。」
「そしたら、先生が言っていた言葉を思い出して。」
「ああ、そういうことか。」

ギシギシと椅子をきしませながら、先生は僕の方に向けて体を前傾させる。
その途中で、脇に控えていた看護師に目くばせでもしたらしい。
そっとカーテンの向こうに白衣のスカートの裾が引き込まれていき、診察室には僕と恋待先生だけになった。
「抗がん剤治療を受けていても、性行為そのものができない体になるわけじゃないんだよ。
治療中にそういう行為に及ぶ気持ちになれないのはストレスからだ。
テストステロンという男性ホルモンは、治療では減らないからね。
それに、君のように治療を終えて時間がたっていれば、 一時的に影響を受けていたいろいろな機能があったとしても、元にもどっているよ。
まぁ、個人差はあるがね。」
「そう、なんですか…。」
「希望するなら検査しようか。」
「どうだろう…。」
「どちらかというと、メンタルの影響ではないかと思うんだけどね。」
「メンタル、ですか。」
「そう。」

僕はどんどん歯切れが悪くなる自分にちゃんと気付いていた。
「決めつけることはできないけれどね、ひどい吐き気や脱毛や、そういう副作用が出ている時に、人に気が向かなくなっても当然だと思うんだ。
でも、全員がそうなるわけでもないんだよ。
実際、治療中の患者さんの中には、逆に、病気が発覚する前よりも性欲が高まった人は少なくないしね。
君の場合がどれに当たるかは調べてみないと正確なことは言えない。
けど、あのひどく辛い時期の感覚を、知らない間にずっと持ち続けてしまっているだけ、ということも大いにありうる。」
「持ち続けて…。」
「そう。無意識のうちにね。トラウマっていうやつだよ。」
「トラウマ!」
その言葉は知っている。
「まぁ、時が治してくれるものもあるよ。気にしない、気にしない。」
「そう、でしょうか…。」

「検査の予約を取っていくかい?」
「う…いや、まだいいです。」
「焦らないことだよ。誰か、この人、という女性が現れたら、気付かないうちにこんなことを『問題』と思わなくなっているかもしれない。でも、いつでも相談においで。こうして話すことそのものが治療になるからね。」
「はい。」
「じゃ、定期検診にしようか。最初から気になっていたんだけど、この微熱は何かな?」
「実は…」
僕は恋待先生に、さよりさんとでかけた夏祭りのことをありのままに打ち明けた。
「ふふふ。君にもそういうところがあるんだねぇ。いつも澄ましているけれど。」
 
半日かかって定期検査を終え、問題なしのお墨付きをいただいた。
微熱も心配ないという。
「では、またね。」
「はい。」

診察室を出た直後に、恋待先生が看護師へ、言うともなしに言った言葉を僕は知らない。
「どこか、幼いんだよなぁ。
四捨五入すれば30になる男が、小学生じゃあるまいし、自分が気を引かれた女性のことを、あんなにスラスラ話してしまうなんてね。
それに、体のことも、きっと抗がん剤じゃないよ。
あれは、家族を持つことが怖いんじゃないかねぇ。
家族というより、父親になること…か。
彼、父親とは縁が薄かったようだから。
まぁ、そんな彼だから、僕も、なんだかほっとけなくてねぇ。」






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さよりさんに誘われて出かけた盆踊りの夜に釣り上げたヨーヨーは、そのままゆかりさんへの土産になった。
「あら、まあまあ!」
ゆかりさんは懐かしそうな目をしながらそれを受け取ると、すこしの間首をかしげて考えていたけれど、戸棚を開けて、奥の方からガラスの鉢を引き出した。
そこに水を張り、ヨーヨーを浮かべたのだ。
ゆかりさんは、ヨーヨーの横に、外からとってきた朝顔の葉を添えた。
カウンターの端にその鉢をそっと置く。
それだけで、夏祭りが店の中にやってきたような雰囲気になった。
ちょうど客の切れ間だった。

「お借りした浴衣を汗まみれにしてしまいました。」
「いいのよ。浴衣とはそういうものだから。洗っておくから、そのまま返してね。」
「すみません。」

冷たいシャワーを頭から浴びて、ほてった体が少しだけ温度を下げる。
小紫はまだ営業しているから、着替えて店に出るつもりだったのだけど、部屋に戻ったところでけだるさに耐えられなくなった。
今夜は出なくていいと、朝からゆかりさんに言われている。
僕はそのまま眠ってしまうことにした。

自分の吐息が炎のように熱く、まるでゴジラにでもなったような気がして目が覚めた。
真夜中…いや、明け方に近いのかもしれないいが…正確な時間はわからない。
耳を澄ませてみるが、何の音もしないところから察するに、店じまいした後らしい。

今度はちゃんと目を覚ました状態で、大きくため息をついてみる。
やはり、息が熱い。
熱帯夜なのだろうか。
そういえば、窓を開けるのも忘れ、部屋に戻った勢いで寝てしまった。
喉が渇いている。
水を飲みたい、階下に降りようと思うのだが、体が布団に張り付いたようになっていて起き上がれない。

またか。
僕はもう数えきれないほど、こういう経験をしている。
少し緊張しすぎたのだろうか。
緊張ではなく、興奮か。無駄な期待か。
敏感な体は正直で、それが抱えきれないほど大きかったことを僕に教えてくれている。

さよりさん、きれいだったな。
もう少し一緒にいたかったな。
一緒にいて…それで…

その時、僕は、ものすごいことに気が付いた。
なぜ、今まで気付かなかったのだろう。
衝撃で、体がガタガタと震え出した。
いや、思い過ごしだ。こういうことには個人差があるに違いない。
無理にもまた眠ってしまおうと思った。
忘れた方がいい。その方が自分を傷つけない。
しかし、僕はそれきり、眠ることができなかった。


「おはよう。あれきり降りてこないから、疲れたんだろうと思ってたわ。」
それでも、ゆかりさんが起き出す音を確認してから、部屋を出た。
微熱は続いているようだけど、それ以上に…いや、だからこそ、起きなければならなかった。
「食欲があまりないんです。でも、喉が渇いて。」
「水がいい?」
「はい、冷たいのが。」
「わかったから、座って。顔色がよくないわ。」
「少し、熱が出たようで。」
「ああ…。」
ゆかりさんも、僕のこうした様子にはかなり慣れたようだ。

「宮田先生を呼びましょうか…。」
「いや、今日は恋待先生に診てもらおうかと思ってるんです。
定期検診には少し早いけど、こんな調子だし、ちょうどいいかと。」
「そうね、それがいいわ。一緒に行ってあげるから、安心して。」
「大丈夫ですよ、ひとりで。でも、タクシーで行こうかな。」
「ええ、ええ。それがいいわ。それなら安心。」
ガラスのコップでたっぷり2杯、冷えた水を飲み、ゆかりさんと話しているうちに、僕は少しだけ落ち着きを取り戻したような気がした。

「穂高、あのね…。」
座布団を二つに折って枕にして寝転び、食事の支度をしているゆかりさんを背にテレビを見ていると、ゆかりさんが声をかけてきた。
「はい?」
「昨日、穂高の浴衣姿を見てね、久しぶりに花火大会に行きたいなぁなんて思ったりしたのだけど…。」
そういえば、もうすぐ大きな花火大会がある。
「ものすごい人ごみですものね、疲れちゃうわよね。」
「そうですね、そうかもしれない。」
花火大会にはものすごく興味をそそられるけれど、夕べの夏祭りくらいでこの有様だ。
全国規模の花火大会にでかけるなんてことをしたら、その場で倒れてしまいかねない。
とはいうものの、ゆかりさんがこんなことを言い出すのは本当に珍しくて、もしかしたら昨日からずっと、一緒に行こうと言いたくて待っていたのかもしれないと思うと、断るのも気が引けた。

「それなら、ゆかりさん。庭で、花火しませんか?」
「まぁ、そうね、それもいいわね!」
「僕、子どもの頃から線香花火が大好きなんですよ。」
「男の子にしては静かな。ねずみ花火なんかが好きなのかと思ってたわ。」
「それもいいですけどね、線香花火は小遣いで10本一束が買えるから、姉さんと半分ずつ…。」
「ああ、そうなのね。思い出があるのね。」
「病院から戻ったら、今夜にでも。」
「熱が下がったらね。夏はまだ長いから。」
「そうですね。」
「じゃ、線香花火を買ってきておくことにしましょう。花火を買うなんて、本当に久しぶり。」

ゆかりさんは、一度止めていた手を動かして、朝食作りを再開した。
リズミカルな包丁の音が響いてくる。
僕は目を閉じて深呼吸をする。
ここにいられてよかったなぁ。
こんな時、一人きりだったら、どれほど心許なかったことか。
まぶたの裏に、子どもの頃、姉さんとどちらが長く球を落とさずにいるか競って見つめた線香花火がチカチカと映る。
「はっきりさせなきゃな。」
僕は改めて自分に言い聞かせた。

電話予約もせずにでかけたが、運よく恋待先生は病院にいて、少し待ったけれど、診察を受けることができた。
「微熱があるって?」
「夕べ、はしゃぎ過ぎたらしくて。」
「思うように体力があがらないね。」
「まあ、体力づくりに励んでいるとはお世辞にも言えませんから。」
「励んでみてほしいんだけどな。」
「元々の性格でしょう。」

僕は、本題を切り出しかねた。
でも、勘のいい先生は、僕に何か言いたいことがあるのだと気付いているらしい。
「何か相談でもあって来たのかな。何だろうね。」
先生は忙しい。
急かされる前に話さなければと分かっているのだが、言いにくくもあった。
でも、これ以上、言いあぐねてもいられない。

「先生、実は、昨夜気付いたことがあって。僕は、その…。」






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すっかり陽が落ちた盆踊り会場は、昼間の間に温められ尽くしたアスファルトと、ごった返す人の熱気とで息詰まるほど暑い。
インドア派でかつ静かな夜型生活が板についた僕は、この暑さと人いきれで目が回りそうだ。
少しでも、今、ここのしんどさから脱出しようと目論む脳は、僕に「浴衣というのは洗濯機で洗えるものか、それともクリーニングに出すのか、こんなに汗をかいてはそのままというわけにはいくまい…」などと、我ながらピントがずれたことを考えている。

そんな僕と手をつないで、あちらへこちらへと引きまわしているのは、もちろんさよりさんだ。
これは、恋に落ちる寸前のふたりが「手をつなぐ」というよりも、人混みで見失うのを恐れた母親が子どもの手を「つなぎとめておく」に近い。

会社の盆踊りというものが想像できないままに来てみたのだが、普段大型トラックが何台も入ってきては転回していく広大なスペースにやぐらを立てて、一番高いところでは、お祭りらしい笛太鼓が引きも切らずに軽快な音頭を鳴らしている。 
周囲には、これも例年のことだそうだが、どれほどあるのかというほどたくさんの屋台が並び、射的だのヨーヨー釣りだの金魚すくいだの綿あめだの、にぎやかなことといったらない。
会社の人々は家族連れで来ているし、さよりさんの話によると、お得意様だとかご近所さんだとかも呼ぶのだそうで、かなりの盛況だ。 

今夜のさよりさんは、ゆかたを着ている。
会社の入り口で待ち合わせをした。
なかなか現れないので、誘ってくれたことを忘れているのではないかと思い始めたところへ、会社の中から彼女は現れた。
浴衣姿だった。
それも、紺地に朝顔なんていう、いかにも夏の浴衣らしいものではない。
白地に、真っ赤なボタンが咲きこぼれているのだ!
長い髪をアップに結い上げてあるのだが、ほろりと一筋ほつれている。
「ごめんね!穂高くん。どう?似合う??」
「ああ、とても。」
「ありがとー。穂高くんも素敵よぉ!」
と、突然、僕の浴衣の右肩にしがみついてきた。
ああそうだ、この人は夜の蝶だったのだと久しぶりに思い出した。
真に受けてはいけない。
こういうしぐさは「客あしらい」なのだろう。
そうして、この派手としか言いようのない(でも、その派手な浴衣が恐ろしく似合っている) 浴衣も、実はかつての「仕事着」だったのではあるまいか。

ねぇ、ちょっと座らない?と言い出すタイミングを見計らっている僕には気づきもしないのか、気付いていても知らない顔をしているのか、さよりさんは僕の手をぐんぐん引っ張って、金魚をすくってみたり、綿あめを買ってみたり、楽しそうにはしゃいでいる。
綿あめなんて、白いかうすいピンクか、そんなものだろうと思っていたが、いまどきは違うらしい。
どうやっているのかわからないが、真紫とか真っ青とか、真っ黄色とか、およそ食べ物とは思えない極彩色を選べる。
「あたし、この真っ赤がいい!」
「はいよっ!」
受け取った綿あめからはイチゴの香りがした。

ねぇ、ちょっと一息…
「穂高くん、あっち行ってみようよ!焼き鳥の屋台があるんだ!」
「え?ああ、うん。」
「ほら、金魚持ってて。」
「ああ、いいよ。」
「ほら、こっち!」
また腕を引っ張られて、人波を縫うように進むと、ひときわ大きく開放的なテントから、香ばしい焼き鳥の香りが漂ってきた。

「売り上げはどう?」
さよりさんが意外な声をかけると、
「姉御!見てくださいよ!もう半分以上売れちゃいましたよ。」
「食中毒なんか出さないように、ちゃんと焼くのよ!」
「おう!任せとけ!」

テントで白タオルを鉢巻きに焼き鳥を焼いているのは、先日、ゆかりさんと一緒に小紫に来た屈強な男たちではないか。
「あの日ね、打合せだったのぉ。」
「へー。」
ゆかりさんは僕に焼き鳥を買わせると、右腕に焼き鳥、左手に金魚の僕と手がつなげなくなったからだろう、僕の背中をぐいぐいと押して、広場の奥、きっと倉庫と車をつなぐあたりの階段に僕を座らせた。
祭りの喧騒から10メートル離れただけだが、ふいに静かさがやってきて、僕はそっとため息をつく。
「焼き鳥、食べようか。」
「そうだね。」
「あーっ、待ってて!」
「何?」
「ビール買ってくるね!」
飲む?とも聞かずにさよりさんは駆け出している。
飛び跳ねすぎて少し浴衣が乱れ始めている。
でも、それも可愛らしいと言えば、言えなくもないか。

祭りの楽しみはきっと、非日常性にあるのだろう。
自分の浴衣姿を見下ろしながら、まさに非日常と思う。
女の子に手を引っ張られて、金魚を片手に下げて、赤い綿あめを舐めさせてもらって、焼き鳥にビール?
こんなマンガみたいな時間が自分にもできるなんて。

「お待たせ〜!」
さよりさんが裾もはだけんばかりの勢いで駆け戻ってきた。
両手に大きな紙コップ。
ドン!と隣に座ったとたんに「かんぱーい!」
ゴクンゴクンと喉を鳴らして、あっという間に半分飲み干している。

「楽しい?」
不意に聞かれて、うん、と答えてしまう。
本当はこれが楽しいのかどうなのか、なんだかよく分からない。
「疲れた?」
いや、そんなことないよ。
そう答えるしかない。男だし。
「子どもの頃にね…」
焼き鳥を一本、さもおいしそうに食べた彼女が言い出した。
「飲んだくれの母さんと、母さんが連れ込んだ男しか家にいないわけだけど、近所では盆踊りがあるわけよ。
でも、親はほら、そういうの全く関心ないわけ。
自分たちが関心ないから、あたしが行ってみたがっているなんて、眼中にないのね。
お小遣いなんて持ってないし、でも興味はあるし、行ってみるのよ。
そうしたらさ、小学校の友達が親と来てるの。
かわいい浴衣着せてもらって、慣れない下駄はいて。
あれほしいって指差すと、金魚すくいもヨーヨーすくいも、綿あめも、何でもやらせてもらえてる。
うらやましかったなぁー。
指をくわえてみているって、ああいうことだよね。
いつか自分もって思ったなぁ。
家を飛び出してから、バイトして、お金好きに使えるようになってから、行ってみたのね、夏祭り。
でも、びっくりした。
全然楽しくないの。
お祭りを楽しいなぁって思う年頃を、もう通り過ぎちゃってた。
悔しかったなぁ。
ほんと、悔しかった。
でもね、今年、こうやって普通の仕事始めたでしょ?
会社がね、お祭りをするんだっていって、準備をするのよ。
当然、あたしも手伝うでしょう?
そうしたら、なんだかだんだん楽しみになってきてね。
会社の人も、毎年何かテントで販売するんだって。
それで、今年は何にしようか?なんて話に混ぜてもらったら、めっちゃ楽しくなったの。
それでね、今年はもしかしたら、お祭り楽しいかなぁって。
子どもの頃に味わえなかった楽しさって、年のせいじゃなくて、ただ、タイミングっていうの?そういうのだけかもって。」

「そうだったの。今日、楽しい?」
「うん!めっちゃ楽しい!!」
「よかったね。」
「うん!」
さよりさんが楽しいなら、その場に一緒にいられるなら、それが楽しいと僕は思った。

「ね、まだヨーヨー釣りしてないね?」
「あー!忘れてたぁ。」
「今度は僕もやってみようかな?」
「いいねぇ!行こう行こう!あ、ごみはちゃんと片づけるのよ!」

今度は僕が彼女の手をひいて、先ほど一度通り過ぎたヨーヨー釣りのプールの前に来た。
僕は、彼女と違って、子どもの頃から祭りとなれば母さんと姉さんと3人で出かけたものだ。
金がなかったのは同じ。
でも、母さんは全部だめとは言わなかった。
「いい?ひとつだけよ。どれにするか、よーく見て歩いて、よーく考えて決めてね。」
僕は毎年ヨーヨー釣りで、姉さんは毎年綿あめを欲しがった。
「だって、ヨーヨーは失敗するとゼロだけど、綿あめは絶対手に入るもんね!」
あの頃から姉さんはしっかり者だったなぁ。

僕は水色の地にオレンジや黄色の曲線が入ったヨーヨーを、さよりさんは白地に鮮やかな線が入ったヨーヨーを釣り上げた。
ふたりでハイタッチ、やはり祭りはひとりより二人で来る方が楽しい。

「あー、楽しかった!じゃ、今夜はこれで。」
「え?」
もっとずっと一緒にいられると思っていた僕は、肩透かしを食らったようで言葉が出ない。
「これから、焼鳥屋の当番なのよ。お化粧直して、ちょっと浴衣も髪も直さないと。」
僕も手伝おうか?と言ってみたが、会社の人のテントだからとスッパリ切られた。
「でも、帰る前にもう一か所、付き合ってくれる?」
もちろんいいよと答えると、彼女はヨーヨーから少し進んだ先にある、先ほどの金魚すくいのプール前に来た。
「その金魚、貸して。」
「これ?」
「おじさん、ありがと!もう十分楽しかったから、金魚を広いプールに返してあげて!」
言われたおじさんも目を丸くしている。
そんなことはお構いなしに、さよりさんは小さなビニール袋に入っていた金魚を1匹、大きなプールに戻した。
「あんたも、みんなと一緒がいいよね?」

戻した金魚はあっという間に他の金魚に紛れて、どれがそれだか分からなくなった。
立ち上がり、裾を直したゆかりさんは、プールに向かってキザなことを言った。
「二度と、釣られるなよ!」
「釣られてくれなきゃ、商売になんねーよぉ!」
おじさんの答えに大笑いしながら、さよりさんはじゃあねと鮮やかに身を翻して、駆け去ってしまった。

夏は始まったばかりだ。
でも、僕の夏は、今夜でもう十分かなという気がしていた。





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7月ももう終わるころになって、ようやく梅雨が明けた。
といっても、僕は喜んでいるわけではない。 
仕事がはかどる、大工は夏が勝負だ!なんていう元さんや、野菜の季節がやってきたぜ!と張り切る長さん、これからは熱中症と夏風邪で患者さんが増えるんだよぉと嘆き半分、どこか嬉しそうに見えなくもない宮田先生と違って僕は全然嬉しくない。
夏は嫌いだ。
何度経験しても嫌いだ。
暑いのは本当に苦手だ。

子どもの頃に、何か余程嫌な経験でもしたのだろうかと思い出してみるのだが、これといって思い浮かばない。
思い出したくもないほど強烈な思い出なんだろうか?

今夜は、さよりさんが言っていた、あの会社の夏祭りだ。
強引な誘いに負けて、僕はつい、行くことにしてしまった。
というのは表向きのこと、あんなふうに声をかけてもらって、僕はまんざらでもなかった。
やっぱり、無視されるより、ずっといい。

ところが、当日になってジワジワと焦りが出た。
何を着ていけばいいんだろう?
まさか、バーテンダースタイルで行くわけにもいかない。
でも、そうしないと、Tシャツとデニムくらいしか持っていない。
それでは気分も見た目もパッとしない。

待ち合わせの時刻まではまだ間があるから、急いで買いに行くこともできる。
けれど、袋から取り出したての折り目が付いたシャツを着ている自分を想像したら、なんだかものすごく気合いが入った初心者みたいで恰好がつかない。
ポロシャツ?それとも?
イメージもわかない。

子どもの頃、母さんや姉さんと一緒に、毎年夏祭りに連れて行ってもらったじゃないか。
あの時、周りの大人は何を着ていた?
思い出してみようとするが、ぼんやりかすんでいてよく分からない。
母さんの笑った顔、姉さんのビーチサンダル、それから?

こういうことは、いくら考えたところで答えは出ないから、素直にゆかりさんに聞いてみることにした。
「夏祭りに行く男というのは、何を着ているものですかね?」
「そうねぇ、普通でいいんじゃないかしら。」
その「普通」が一番困る。
今夜何食べたい?と聞いて、何でもいいよと言われた時と同じくらい困る。

「ああ、そうそう。よかったら、これ着て行ってみない?」
ゆかりさんはそう言うと、自分の部屋に行き、白い畳紙に包まれた着物を持ってきた。
そのまま居間に座って見せてもらう。
中から、男物の浴衣が出てきた。

「これは?」
「だいぶ古いものだけれど、きちんと手入れをしながら保管してあるから、いつでも着られるわ。
帯も、下駄も、ほら、そろえてあるし。」
ゆかりさんは、家族について多くを語りたがらない。
僕はいまだに、彼女が既婚者なのか、子どもがいるのかなど、まったく知らずにいる。
でも、問いかけたことがない。
問わない僕だから、ここに置いてもらえるのだと思っている。
だから、その浴衣はどなたのものですか?とは問わずにおくことにした。

「お借りしてもいいですか?」
僕は渡りに舟と飛びつくことにした。
大学の学部にいたころ、少しだけ茶道をかじったことがある。
学園祭の発表会の時には、浴衣姿で茶をたてた。
まったく知らない着物ではない。
もっとも、あの時の浴衣は借り物で、自前のものなど持ったことがないのだが。

おかげで、僕は服選びの苦痛からあっという間に解放された。
ゆかりさんにちょっと手伝ってもらって浴衣を着た後は、時間を見てでかければよいだけだ。
6時に正門前で…と言われている。
あの会社までの道のりは、歩いていくこともできるのだが、駅前でちょっとお金をおろしてから、ひと駅電車に乗っていくことにした。
下駄では歩き慣れていないから、少しでも歩く距離を縮めておくのは悪くない。

さほど混んでいないだろうと思っていた車内は、意外と人が多い。
ユニフォームを着て真っ黒に日焼けした小学生の団体を、小柄で若い女性がひとりで引率している。
このユニフォーム、持ち物ならばサッカーだろうか。
子どもたちなりに精一杯おとなしくしているのだろうが、甲高い笑い声、一斉のどよめき、なかなかに騒々しい。

僕がつかまったつり革の隣に、引率の小柄な女性がいる。
彼女も真っ黒に日焼けしている。
つり革を持ちながら、周囲に目を配り、声が大きすぎたりすると、キッと目配せをしている。
長い髪をポニーテールにして、一切の無駄がなさそうな引き締まった容姿に、自分とは異世界の何かを感じる。
彼女もまた、Tシャツにジャージ姿だった。

「お前さぁ…。」
子どもたちの中でも年齢が上に見える少年が、彼女に話しかけた。
少年は彼女と同じくらいの背丈をしている。
「何?」
お前と呼ばれても、彼女は文句ひとつ言わない。
「お前も一応女なんだからさぁ、試合の行き帰りくらい化粧するとか、普通の服着るとかしろよ。」
「ピアスとかネックレスとか、ネイルとかしろよ!」
最初の少年より年下の子が一緒になっていうと、そうだそうだと他の少年たちもはやし立てる。
「電車にジャージで乗ってる女なんかいないぞ。」

僕は、彼女がなんて答えるのか、少年たちと同じくらい興味を持ってしまった。

「あのね、試合の前に普通の服着た監督を見て、やる気が湧く?」
「着替えればいいじゃん。」
「あたしが着替えに行っている間、みんなの気持ちとか練習とか、緩んじゃうんじゃない?」
「そんなことないよ!」
「そうか、ないか。みんなならそうかもね。でもね…。」

さっきまでゲームがどうの、スマホがどうのとワイワイいっていた20人ほどの子どもたちが、いつの間にか彼女の声を聴き始めている。
それほど大きな声ではないのに。
統制のとれたチームのようだ。

「あたしはまだ先生になって間もない半人前だからね、偉そうなことは言えないんだけど、みんなと一緒にいるときって、あたしはみんなと同じでいたいんだよね。」
「なんで?別にお手本とかいらねーし。」
「うん。お手本なんてすばらしいものにはもともとなれないし…。」
「それじゃダメじゃない!」
子どもたちが笑う。

「けどね、例えば、運動会を考えてみてよ。
みんなは今日みたいに、決められた体操着を着ているでしょ?
見に来るお母さんたちは体操着?」
「そんなことない!体操着だとヘンだよ。普通の恰好。」
「だよね?ネックレスとかピアスとかは?」
「してるねー。」
「うちの母ちゃん、けっこう気合い入ってる!」
「そうそう。お母さんたちはそれでいいの。だって、応援団だもん。」
「うん。」
「じゃあ、運動会の時、先生たちがみんなお母さんと同じ格好していたらどう思う?」
「えー?なんか変。」
「変?
じゃ、先生が服はジャージを着てるけど、ステキなネックレスしてたら?
ダイヤがキラキラとか、真珠がずらりとか。」
「あー!なんかすげーヤダ。」
「雰囲気壊すねー。」
「雰囲気壊す?
じゃぁ、ネックレスはやめて、ピアスして、綺麗なネイルしたばかりだから綱なんか持てないよ、って言ったら?」
「うわ、サイテー!」
「ピアスしててボール当たったら怪我するよって、ママが言ってた。」
「そうだね、危ないってのもあるね。
じゃ、もし、先生が救護の係で、みんなのかけっこやダンスは一緒にやらないとしたら、オシャレしてもいい?」
「…うーん、どうかな?」
「オレはヤダな。」
最初に化粧しろと言った少年が言い出した。
「だって、あんたたちは走る人、私は関係ないって言われているみたいな気がする。」
しばらく真面目な顔で聞いていた隣の少年も言い出した。
「運動会の朝、先生が、僕たちのことじゃなくて、自分のネックレスとかピアスとかのことを考えてたんだーって思うと、なんだかちょっとがっかりするね。」

「あたしもね、そうなんじゃないかな?って思うの。
あたしはね、役割は違うけど、いつでも一緒に走る気だよ、君たちと心は一つだよっていうのを、服装でも表したいんだよね。」
「そうなんだー。」
「わかった!だから校長先生もカッコ悪いジャージなんだね?」
「スゲー古いデザインのやつ。着慣れてないから似合わねーんだよなー。」
「でも、校長先生のジャージ見ると、今日は特別な日なんだな!って、ドキドキするよな?」
「うん!」

「いろんな考え方があるし、みんなが私みたいに感じるわけではないと思う。
でも、あたしは、みんながジャージで試合のことを考えるときは、私もジャージで、みんなの気持ちになって、みんなと一緒に試合のことを考えたいの。
オシャレは別の時にいくらでもできるからね。
それに…。」

彼女はジャージのズボンを引っ張った。
「これ、あたしが今一番気に入っているスカートより高いんだよ!」
「えーっ!」
「大人になって、一生懸命仕事してお給料いただくと、こんな楽しみがあるんだよっていうことよ。」
「へー!」

「お前さぁ…。」
最初にこの話をし始めた少年がしみじみと言う。
電車はそろそろ次の駅に近づき、減速し始めている。
「オレ、初めてお前のこと、先生って呼んでやってもいいと思った。」
「じゃ、これから、お前じゃなくて、先生って呼んでくれるの?キャプテン?」
「ま、気が向いたらね。」
「しかたないか。あまりに未熟者だからねー。
いつも先生って呼んでもらえるように、これからも精一杯頑張ります!」
「ま、頑張れば?」
少年の偉そうな答えと同時に電車が止まり、ドアが開く。
子どもたちの盛大な笑い声が湧き起こった。

僕はその笑い声を背に、電車を降りた。
空には雲ひとつなく、あちらこちらから蝉の声が降り注いている。
電車の冷房から一気に外の蒸し暑さに投げ出されたのに、僕の心はさわやかなままだった。










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会社の仲間とはしゃいでいるさよりさんを見ていて、僕はなんだか落ち着かない。
まるで自分が無視されているような感覚に苛まれるのだ。
でも、さよりさんは店に客としてきて、客らしく楽しく飲んでいるにすぎない。
他のお客様と同じように。
来てくださってありがとうございますと思うのが、僕の仕事だ。
そんなこと、頭では十分分かっているのだけど。

「あのぉ。」
少しぼんやりしていた僕に、カウンターでひとり飲んでいた初老の紳士が声をかけてきた。
静かにゆっくりとグラスを口に運ぶ姿が洗練されている。
「は、はい。すみません、ご注文ですか?」
それに比べて、ひとつの返事に、僕はしゃべりすぎている。

「なんだかね、冷ややっこが食べたくなってきてね。」
「はい。ご用意いたします。」
「そうかい。どんなふうにできるだろうね?」
召し上がりたいものがあるだけでなく、お話がなさりたいのだろう。
この会話は、ゆかりさんに任せた方がよさそうだ。

「お好みがおありですか?」
ゆかりさんがすっと隣にやってきて、僕と何のやりとりもなく話を継いだのが、紳士を喜ばせたらしい。
「そういうことではないのだが、ほら、簡単な料理ほど、いろいろ工夫ができるものだろう?」
「そうですね…。」
ゆかりさんは人差し指をあごにあてて、少し首をかしげて見せた。
「お嫌いでなければ、ショウガと青しそに、少しミョウガを添えてお出ししてみましょうか。」
「おお、ミョウガか。それはいい。」
「ミョウガはお好みでない方も多いので、あまりお出しすることはないのですよ。」
「そうかもしれないね。
いえね、子どものころ住んでいた家の庭に、ミョウガが勝手に生えてくるんですよ。
それで、夏の間はそうめんだのなんだのと言うたびにミョウガがついてくる。
子どものころはあれが苦手でね。」
紳士は懐かしそうに眼を細めている。
「新潟の出身なんだがね。」
「そうでしたか。」
「故郷を離れて暮らす方がずっと長くなったけど、今頃になって子どもの頃の味が懐かしい時があるねぇ。」
「はい、はい。そうでございましょう。」

いつもは一度奥の調理場に入って支度をするのだが、今はお話が続いているので、僕が奥に入り、耳にした材料をそろえてカウンターに持ってきた。
「白ごまもね。」
ゆかりさんの耳打ちを聞いて僕は急いで身を翻す。
ゆかりさんは会話を途切れさせることなく、紳士ご用命の冷ややっこを仕上げた。
切り子が美しいガラスの器に盛りつけ、箸ではなく、木のスプーンを添えた。
「これはこれは。目に涼しく、舌に涼しく、だねぇ。」
あくまで細く切られた青しその上に白ゴマが散っている様子が、淡雪のようにも見える。
「うまい。これは、うまい!上等な豆腐を使っているね。」
紳士はたいそうご機嫌だ。

「ところでママさん。あなたの今夜の着物は、きっと上布だろうね。」
「まぁ、よくご存じで。その通り、ご出身の新潟でできた越後上布ですわ。」
「よく似合っているねぇ。」
「あら、お上手ですこと!」

今夜の着物は「上布(じょうふ)」というそうだ。
麻でできていて、薄く、軽いのだそうだ。
深い紺色の中に、井形の模様が白く浮き出ている。

「この布が仕上がるまでには、50工程もの手作業が必要なの。」
昨年、この着物を初めて見た日にゆかりさんが教えてくれた。
「越後上布は重要無形文化財になっているの。織るにも染めるにも、職人さんが精魂傾けてひとつひとつ手を動かして作り上げるのね。それをこうして着せていただけるのは、本当にすばらしい気持ちになるのよ。」
ベージュ…いや、今夜は練色(ねりいろ)と呼ぼう… の帯とのコントラストがいかにも涼しげな着こなしなのだ。
七夕の夜の、特別なしつらえなのだろう。
この着物を着ると、ゆかりさんはいつもの数倍、しゃんとして、きれいに見える。

「越後上布は年取った職人が糸をつむぐのは知っているでしょう?」
「はい。存じております。」
「今はそれが、できなくなってしまった。」
「まぁ!それは存じませんでした。どうしたのでしょう?」
「新潟で、大きな地震があったのは、もうずいぶん前のことに思えるが…。」
「覚えておりますよ。」
「あの地震でね、土地の職人たちが怪我をしたり、避難したり、都会の子どもたちの家に引き取られたりして、糸を紡げる職人がいなくなってしまったのだよ。」
「…!」
「今では伝統のままに作られる越後上布は、年に2反か3反か、そんなものだそうだ。」
ゆかりさんは息を飲んでいる。
「だからね、ママさんの越後上布は買ったときも高かっただろが、これからますます価値が出るでしょうよ。」

紳士はあっというまに冷ややっこを腹に収めている。
薬味のわずかな破片も残さないきれいな食べ方に、器を下げながら、僕はちょっと憧れめいた感覚を覚えた。

「君、ママさんのあの着物、いくらぐらいすると思う?」
「はぁ…。」
こういう時は、当てるより外れる方が喜ばれる。
でも、本当に、いくらなのか想像もつかない。
盛大に高値を言ってみようか。
「20万円くらいかなぁ。」
「わっはっはっはっ!」
紳士は大爆笑の体だ。
「違いましたか!」
「20万円では帯も買えないだろう。
ゼロがひとつ足りないよ。
いや、ゼロをもうひとつ足したくらいでは買えないんだと思いますよ。」
「ほ、本当ですか!」

僕は瞬きの仕方を忘れてしまった。
ゆかりさんは微笑むだけで、頷きもしなければ首を振りもしない。

「穂高くーん!」
もうすっかり出来上がったさよりさんが呼んでいる。
紳士が、行っておいでと手を振る。
世の中には、僕が想像もできない世界がまだまだたくさんあるんだなぁ。

「ねぇ、願い事書いておいたから、笹につけてきてよ。」
「はい。」
年下の癖に、相変わらず人使いが荒い。
「それからね、月末にね、会社で盆踊り大会があるんだけど、穂高くんも来ない?」
「へ?」
「来るでしょ?花火大会もあるんだ。ね?じゃ、そういうことで。」
「あ?」
「あんた、いいねぇ、姉御に誘われるなんてさぁ。」
ことに色黒の筋肉が、僕の背中をバンと叩いてガッハッハと笑った。
ゆかりさんは「何言ってんのよぉ」とご機嫌だ。
僕はまだ、背中を打たれた勢いで息が止まったままだというのに。






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